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2018.09.21 (金) 印刷する

「ヨーロッパの安全保障~紛争、抑止、同盟の将来~」 吉崎知典・防衛研究所特別研究官

欧州の安全保障に詳しい防衛研究所の吉崎知典特別研究官は、9月21日、国家基本問題研究所の企画委員会におけるゲストスピーカーとして、「ヨーロッパの安全保障」について語り、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員と意見交換した。

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氏はまず、有名なハーマン・カーンの戦略書『考えられないことを考える』(Thinking about the Unthinkable)を例に、これまでの抑止概念に疑問を投げ、あり得ないようなことにも注意を向けるべしとした。

次に、近年の紛争形態を、伝統的な戦争とは異なり、9.11以降のクリミア危機などを題材に、正規・非正規手段による現状の変更を行う「ハイブリッド戦」が主流となりつつあると指摘。非国家組織たとえば自警団、テロ組織、民間漁船などが主体となるため、通常の軍隊とは異なる対応が必要とされるとも。

近年、ヨーロッパにおける戦略環境も変化し、特に対テロ戦争が欧州からアフリカ、中央アジア、中東方面へ米軍などのパワーをシフトさせ、米欧州軍は縮小。たとえばM1エイブラムス戦車は欧州から消滅し、2003年には5万6千の兵力が2013年には2万7千へと半減した。これが、欧州の力の空白を作り出した原因という。

一方、平和の祭典であるソチオリンピックが2014年2月に終わるとすぐ、クリミアが非正規軍(Little Green Men)に要衝を占拠され、住民投票という手段でロシアへの編入が決定されるという事態に。これは、欧州のパワーバランスの崩れの隙もさることながら、上述のようなハイブリッド戦には従来の抑止が効きにくいのだという。

これに対し、NATOはウェールズ首脳会議(2014年9月)、ワルシャワ首脳会議(2016年7月)を経て、対ロ共同防衛(5条任務)という原点へ回帰する方向で調整、米欧州軍(EUCOM)も「NATO同盟国への安心供与(Reassurance)」と「ロシア侵略の抑止(Deterrence)」を打ち出し、陸軍重視へと方向を変えたという。

翻って、アジア太平洋地域も南シナ海の人工島や東シナ海の尖閣諸島でも同様のハイブリッド戦が展開されつつあると指摘。要は、相手が実行した場合、得られる果実より代償が大きいと認識させ続けることが危機管理上大事な点であり、あらゆる事態に備えるべきと警鐘を鳴らした。

吉崎知典氏は、1962年生まれで神奈川県出身。1985年慶応大学卒、87年同大学院修士課程修了(法学修士)、93~94年ロンドン大学キングスカレッジ防衛研究学部客員研究員、99年米ハドソン研究所研究員を歴任。現在、防衛研究所特別研究官(政策シミュレーション担当)として、戦略論、同盟研究、平和構築、ヨーロッパの安全保障などを専門とする。

(文責 国基研)