公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.11.19 (月) 印刷する

「戦時朝鮮人労働者」と呼ぼう 鄭大均(首都大学東京名誉教授)

 韓国大法院の「徴用工判決」に日本政府が批判的に対応しているのは好ましい。批判のなかで4人の原告を「徴用工」ではなく「旧朝鮮半島出身の労働者」と呼んでいるのも注目される。
 ただし「徴用工」の名称については、「朝鮮人戦時労働者」(wartime Korean workers)と呼ばれるべきであるという提言が国家基本問題研究所からなされた。1941年から43年にかけて今日の新日鉄住金にリクルートされた4人は、いずれも朝鮮人に徴用令が適用された44年9月以前に渡日しているのだから、これを「徴用工」と呼ぶのは確かにおかしい。しかし、それなら言葉の並びを少し変えて「戦時朝鮮人労働者」としたほうがよいのではないか。

 ●日本の尊厳傷つけた邪説・僻言
 日韓関係史にまつわる名称には驚くほどの恣意性や党派性があって、それが偏見や誤謬の伝播に大きく貢献するという状況がある。
 その最たるものは「朝鮮人強制連行」という用語で、これは戦地に動員された日本人男性によって生じた労働力不足を補充するために朝鮮半島から動員された朝鮮人労働者の被害者性を誇張するべく編み出された用語であるが、それはやがて日本人の心に集団的なうしろめたさの感覚を植えつけるとともに、国際社会においては日本の尊厳を傷つける上で大いに貢献した。
 紀元前4世紀に生れた荀子によれば「邪説・僻言」には3つの型がある。「名前を偽って正しい名前を混乱させるもの」「事実を偽って正しい名前を混乱させるもの」「名前を偽って事実を混乱させるもの」(『正名篇』)だ。

 ●批判せぬ政党やメディアにも責任
 日本政府はあまりにも長い間、韓国の政府やメディアが語る日本の朝鮮統治にまつわる誤謬について批判することを怠ってきたが、ここにきてやっと言うべきことの一端を言い始めたのは喜ばしい。
 ただし戦うべき相手は、韓国の現政権やそれを支えるメディアや知識人であるとともに、それに連帯する日本の知識人や政党やメディアである。彼らは今日の世界における良心や政治的規範の代弁者気取りなのである。