公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.01.31 (木) 印刷する

ベネズエラ問題で割れる米民主党 島田洋一(福井県立大学教授)

 ベネズエラ情勢が緊迫している。
 反米を声高に掲げたポピュリスト左翼のチャベスの死後、大統領職を継いだマドゥロは、経済が混乱し社会が不安定化する中、野党連合が多数を占める国会の権限を奪う反憲法的措置を次々打ち出してきた。
 これに対し今年1月23日、グアイド国会議長(35)が自ら暫定大統領に就任すると宣言、米国やカナダ、中南米諸国の大半が直ちにこれを承認した。一方、あくまでマドゥロ支持を打ち出したのが中国、ロシア、キューバ、トルコ等である。
 ベネズエラは大産油国で、確認埋蔵量はサウジアラビアより多い。そのため、中国、ロシアは石油利権確保(および中南米における反米拠点維持)を狙い、マドゥロ政権下での投資拡大、財政支援を進めてきた。アメリカが主導する制裁を露骨に掘り崩す行為であった。米国における反中、反露世論の高まりには、ベネズエラ・ファクターも大いに与っている。

 ●指導部はグアイド暫定大統領支持
 ホワイトハウスで存在感を増すボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアを「暴政3人組」(Troika of Tyranny)と呼び、締め付け強化の立場を鮮明にしてきた。
 米議会で対中強硬路線を主導するマルコ・ルビオ上院議員(共和党)は、反マドゥロの急先鋒でもある。ルビオはキューバ難民の子弟で、「暴政3人組」に友好姿勢を取る人々への侮蔑と怒りの念を隠さない。
ルビオは、トランプ政権の「グアイド承認・支援」方針を強く支持しつつ、中露についてこう述べている。
 「中国はマドゥロにつぎ込んだ大金が失われるのを恐れている。ロシアは石油利権に加え、アメリカを脅かす拠点の維持を狙っている。プーチンが内政不干渉を説くのはお笑い草だ。あの男はアメリカの選挙に干渉し、ウクライナに侵攻し、クリミアを取り、シリアに全面干渉している」
 注目すべきは、野党民主党内の動きである。ディック・ダービン上院議員(上院で民主党ナンバー2)、ナンシー・ペロシ下院議長ら指導部は、トランプ政権の方針を支持し、グアイド暫定大統領支持を打ち出した。
 ダービンの声明を紹介しておこう。作年ベネズエラを訪れた際、「当時の大統領マドゥロ」(then-President Maduro)に対し、もし「馬鹿げたまでに操作された条件のもとでのニセ選挙」(a sham election under absurdly rigged conditions)を押し進めるなら益々孤立を深めるだろう」と警告したが無視された。
 トランプ大統領や各国が「勇敢な愛国者」(brave patriots)であるグアイド国会議長らを「適切に承認した」(appropriately recognized)のは当然だ。
 ダービンは最も党派的なトランプ批判で知られた議員だが、重要な外交問題で、間髪入れず大統領支持を打ち出すあたりは立派である。

 ●独裁者に宥和的な若手の進歩派
 一方、党内の若手グループ、すなわち作年の中間選挙で話題を呼んだヒスパニック系女性のアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(当選時28歳)やロー・カンナ下院議員(反日慰安婦決議を推進したマイク・ホンダを予備選で破った)ら、近年台頭した進歩派議員らは、執行部に反旗を翻し、中立の立場でまずは制裁を解除し、話し合い解決を促すのが正しいと主張している。
 カンナはツイートでこう述べている。「尊敬するダービン上院議員の言葉だが、アメリカは、ベネズエラ国内が対立状況にある間、野党指導者を承認してはならない。…まずハイパーインフレを悪化させている制裁を終わらせよう」。オカシオコルテスは早速これをリツイートして、賛同の意を表している。
 昨年の中間選挙で女性イスラム教徒として初めて当選し、メディアが大きく取り上げたソマリア生まれのイルハン・オマール下院議員(当選時37歳)も次のように主張し、物議を醸した。(なお女性イスラム教徒としてはラシーダ・トレイブ下院議員も同時当選している。トレイブは、そのトランプ批判が余りに品位を欠くと、1月、民主党指導部から注意を受けた)
 「アメリカに支援されたベネズエラのクーデターは問題の解決にならない。極右野党(far-right opposition)を据え付けようというトランプの試みは暴力を煽るだけで地域を更に不安定化させる」。民主党指導部との乖離は明らかだろう。
 日本ではオカシオコルテスらを清新な風を吹き込む期待の星と描く向きも多いが、浅見と言う他ない。上記に明らかな通り、彼女らの多くは独裁者に宥和的な旧来型の左翼である。北朝鮮に対しても当然、「まず制裁解除を」という立場を採るだろう。外面に流されるのではなく、内実を掘り下げた報道が望まれる。(敬称略)