国家基本問題研究所企画委員の富坂聰・拓殖大学教授は8月23日(金)、同研究所で開かれた企画委員会において、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員に対し、最近の中国情勢について語り、その後意見交換した。
●米中貿易摩擦
米中貿易摩擦の影響が日本経済にも及び始めている実態が指摘された。例えば、日本電産の会長が「尋常ではない変化」と表現したように、日本の上場企業の多くに、昨年末から大きな減収減益の波が押し寄せている。特に、半導体、自動車部品、科学光学の分野の落ち込みが激しいという。
グローバルサプライチェーン、すなわち製造業における製品の供給が国際的に相互に連携している現状では、米中という一本の鎖が切断されると、すべてに波及していくのである。スマートホン一つを見ても、中国製のスマホは中国で最終組み立てをしているだけで、本体内部の部品は韓国や日本などから調達する訳で、中国企業だけが被害を受けるのではないという。
●活気ある中国経済
中国国内ではニューエコノミーと呼ばれるデジタル経済が活況を呈している。すでに貨幣の流通が必要ないスマホ決済が主流となり、2017年には1377兆円がスマホ決済で、そのうち半分をアリババが占めているという。これは、「共建無現金社会」をスローガンにした政府主導の取り組みの成果で、そのほとんどを”BAT”と呼ばれる百度、アリババ、テンセントなどのIT企業が支えており、関連する中小企業も急成長している。
また、シェアリングエコノミーも急速に拡大しているという。モノやサービスを自分だけで所有・利用せずに、インターネットを使って情報共有することで、必要なタイミングで利用でき、購入費や維持費も削減できるという大きなメリットがある。世界的には既にタクシーの配車サービスなどでウーバーが先行しているが、中国国内でも、自転車や自動車のシェアが進んでおり、さらに他のサービスへ発展する勢いが止まらない。
●スマートシティの恩恵と徹底管理される個人情報
IoT(モノのインターネット)の先端技術を用いて、生活インフラなどを管理・運営し、QOL(生活の質)を高めるように進化した都市であるスマートシティが中国各地で増えてきている。それを支えるのが情報のデジタル化と一元管理だ。たとえば、監視カメラで認識された個人のデータから次の行動をAIが予測し、帰宅時にはエアコンがすでに稼動している状態になるという。
また個人の健康状態のデータも管理されれば、安価に適切な治療を受けることができるようになるという。しかし、一方で、個人情報が徹底的に当局に管理され、プライバシーが無くなるリスクもあり、すべてがバラ色という訳でもないとのこと。ただし、我が国は、デジタル化、スマート化の面で、すでに中国に大きな遅れを取っていると指摘した。
その他、香港情勢、尖閣問題、中国の対日感情など、様々な角度からの解説があり、企画委員会の短時間では収まりきらない意見交換会となった。(文責 国基研)