8月2日、国基研企画委員会は、ゲストスピーカーとして、現代中国研究家の津上俊哉氏を招き、「中国経済と米中ハイテク冷戦の行方(続)」と題し、前回(本年2月)来所以来の変化要因を含め中国経済を概観しつつ米中貿易摩擦などについても言及、櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。
津上氏は、前回2月の来所から半年を経過し、中国経済の上半期の経済状況を総括した。新旧二つの経済が同居する中国では、ニューエコノミー(IT・ビッグデータ経済)が好調だが、オールドエコノミー(官製重厚長大型経済)不振傾向が継続。そんな中、経済的な三重苦、すなわち、バブル後のバランスシート調整期、民営企業への圧力、米中貿易戦争に直面している。
他方、中国政府の発表は、GDP成長率は6.2%で27年ぶりの低さだが、明るめの材料としては工業生産、消費は回復、インフラ投資も堅調だという。工業生産の回復は、素材産業の堅調さが支えたが、素材の在庫が積み上がっているという。また、消費の回復は、自動車関連に特化され、先行きは楽観できない。
バブル後遺症期5年目に突入し、バランスシートを修復するため、企業が投資を控える一方、地方政府は無理に公共投資を伸ばしているが、そろそろ限界が近いとも。中国バブルの実体は、中央政府が圧倒的経済支配力を背景に、「見えざる保証の手(朱寧・上海交通大学教授)」を差し伸べてきたことで、バランスシートの劣化が進行するという構図がある。
その流れに、米国の対中強硬策が追い打ちをかける。トランプ大統領が仕掛ける貿易戦争と、米国主流派の対中警戒意識による対抗策で、中国の軍拡、サイバー戦能力向上、ハイテク進化、とくに5G次世代通信技術に対し強い危機感をもつ。
その結果、米国はファーウェイ製品締め出しを強行するが、多くの国は追従していないというのが実情だ。このままでは、いつのまにか米陣営が少数派となり孤立するという状況に陥りかねない。
では、専制的な中国がサイバー技術を使って、世界の覇権を握る時代がくるのか。肯定論、否定論ともに存在するが、注目すべきは、中国という振り子が右か左のどちらに大きく振れるのかを見極めることだという。中国の体制内世論の重心は、習近平たち文革世代が現役最高ランクを占めるため、現在のところ保守派(対外強硬派)側にある。今後の中国内政の見所は、指導層の世代間対立の行方にあると指摘した。
加えて、「一帯一路」についても、冷静に観察すべきとした。国民の多くも融資が返ってこないと見てあまり賛同しない。今後は、内外の批判を恐れ慎重姿勢になるとした。
【略歴】
津上氏は1957年生まれ。1980年東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。中国日本大使館参事官、通商産業局北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員を歴任。2004年、東亜キャピタル社長、2012年から津上工作室の代表を務め、日本国際問題研究所客員研究員の肩書を持ち、「本業、趣味とも中国屋」という現代中国研究家。著書に、『中国台頭』(サントリー学芸賞受賞)、『中国台頭の終焉』、『「米中経済戦争」の内実を読み解く』など多数。(文責 国基研)