国基研の理事も務める大原康男・國學院大學名誉教授は、7月26日、定例の企画委員会におけるゲスト講師として、戦後、祭祀を中心とした神社神道が多大な影響を被った進駐軍の対日占領政策の一つ「神道指令」について語り、参会者と意見を交換した。
GHQの基本方針「降伏後ニ於ケル米国ノ初期対日方針」(1945.9.6)によると、その目的は日本の脅威とその排除にあった。具体的には、軍事的には陸海軍の解体、政治的には憲法改正、経済的には財閥解体、そして精神的には教育制度の改革、などにより行われた。特に教育制度は、日本が脅威となる源は日本人の心の中にあり、それが軍国主義(ミリタリズム、戦争賛美思想)と超国家主義(ウルトラナショナリズム、民族的優越感)だったという筋書きをもって、これを排除するため、GHQの民間情報教育局(CIE)が、教育の4大指令を発出する。
たとえば、教育制度や仕組みを徹底的に管理する、教員を調査して不適格者を除外する、教育課目のうち修身、歴史、地理を停止する、などの諸施策の他、教育から神道的要素を払拭しようとした。そのため発出されたものが、いわゆる「神道指令(Shinto Directive)」と呼ばれるもので、CIEが、軍国主義と超国家主義の主要な源泉が「国家神道(State Shinto)」にあると見ていたことによる。
「神道指令」は、CIE宗教課のバンス課長によって起草された。GHQは「国家神道」を、「教派神道(神道系新興宗教)と区別し、国家によって管理された非宗教としての神社神道」と定義した。その内容は、13項目にわたって国家と神道を徹底的に分離させようと、具体的に命じた。すなわち、神社神道に対する公的財政援助の禁止、神道研究・教育を目的とする国公立学校の廃止、公共施設から神棚等の撤去、官公吏による神社参拝の禁止など。しかし、この指令は同時に、すべての宗教と国家の分離も謳っていたが、実際には刑務所には仏壇が存置され、GHQは邦訳聖書を大量に頒布するなど、その適用は不公正であった。
その後、「神道指令」の内容はさらに徹底されていく。たとえば、国公立学校の生徒・児童による神社仏閣訪問の禁止、国や公共団体の地鎮祭や上棟祭の禁止、戦没者慰霊の禁止、靖國神社や護国神社に対する厳しい処遇などである。ただし、その後、修学旅行先に神社が復活するなど一部は緩和されるが、靖國や護国神社への処遇に変化はない。
平成9年「愛媛県靖国神社玉串料訴訟」の最高裁判決では、政教分離に反するとして違憲判決が出るなど、そもそも、占領政策として始まった神道指令の亡霊が、いまだに効力をもっていること自体、不可思議極まりないとした。
【略歴】
昭和17年、滋賀県大津市生まれ。昭和40年、京都大学法学部卒業。日清紡績㈱勤務後、53年、國學院大学大学院博士課程(神道学専攻)修了、同大日本文化研究所に入所。同研究所教授を経て、同大神道文化学部教授。博士(神道学)。国基研理事。主な著書は、『現代日本の国家と宗教 戦後政教問題資料集成』(展転社、2008年)、『神道指令の研究』(原書房「明治百年史叢書」、1993年)など、多数。(文責 国基研)