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2019.10.16 (水) 印刷する

日本の防衛産業衰退が意味すること(上) 吉岡秀之(元航空自衛隊補給本部長)

 米軍事専門誌Defense Newsが7月、世界の防衛企業「トップ100」を発表した。わが国企業では、昨年まで三菱重工業、IHI、三菱電機などが名を連ねていたが、今回は98位に石油元売り大手JXTGエネルギー、99位に伊藤忠、100位に川崎重工が入っただけだ。JXTG社は燃料、伊藤忠は一般輸入装備品等を扱っており、製造業は川崎重工だけである。同リストは、外国政府・企業に「日本は自国の防衛産業に見切りをつけて、主要装備品とその維持整備を米に委ねる方向に舵を切った」と不本意な評価を与える可能性がある。

 ●激増するFMS調達
 政府は、安全保障環境が不透明で、極めて厳しいという認識の下に、26中期防と31中期防(※1)で防衛力の強化を急いでいる。平成31年度の防衛予算は約5兆円であるが、これは平成26年度予算に対して約2300億円の増加である。
 26中期防では、米国からE-2D新早期警戒機、F-35A戦闘機、KC-46新空中給油・輸送機、及びイージス・アショアなどをFMS調達(※2)した。平成31年度はFMS調達に約6900億円が予算化されている。かつてない程の爆買いである。
 主に装備品等の支払いに充てられる後年度負担額は、平成26年度に約1.9兆円、それが平成31年度には約2.4兆円に膨れ上がっている。防衛予算が同様に増えなければ、FMS調達品の経費は国内調達額を削減して捻出することになる。
 防衛装備庁が調達中の航空機に対して支払う平成31年度経費(歳出額)は約3255億円である。そのうちFMS調達と一般輸入額の合計は約2692億円にのぼり、全体の83%を占める(日本宇宙工業会資料)。
 これでは航空防衛産業に仕事が回らず、開店休業という状態である。特に中小企業が厳しい経営状態にあると聞く。FMS調達品の維持整備等もFMS調達される。これも、今後長期に亘って大きな負担になってくる。

吉岡秀之

 ●武器輸出3原則も影響
 FMS調達品の急増は、同等の能力を持った国産品がない、又は期待する時期までに開発が出来ないからである。この理由は、自衛隊が発足して以降、一部の国産品を除いて、主に米製装備品等をライセンス国産して「それで良し」としてきたこと、また武器輸出3原則等により外国企業との技術交流が制限されてきたため、最新の機微な技術から取り残されたことがある。
 加えて、研究開発費が長期に亘って防衛予算に対して約2~3%しか配分されなかったことも大きい。平成29年度の研究開発費は約1217億円であり、米の約6.1兆円(2019年度は約9.8兆円)、韓国の約3715億円と比べて驚くほど少ない。


<注>
(※1)26中期防は平成26年度から同30年度までの中期防衛力整備計画。31中期防は平成31年度から令和5年度までの中期防衛力整備計画
(※2)(Foreign Military Sales)は米政府が友好国政府に行う装備品の有償援助