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2019.10.16 (水) 印刷する

日本の防衛産業衰退が意味すること(下) 吉岡秀之(元航空自衛隊補給本部長)

 31中期防では、防衛産業に対する施策として、研究開発を含む装備品のプロジェクト管理の強化と費用対効果の向上、部品等の国際市場からの調達、重要技術について研究開発ビジョン策定、コスト管理の厳格化、企業間の競争環境の創出に向けた契約制度の見直しなどを上げている。
 大手ならまだしも、中小企業にこれらの施策をそのまま適用した場合、撤退、廃業等がより顕在化するのではないだろうか。これらの実状を踏まえて、防衛産業、いわゆる製造業、を強化するための対応策を提案する。

 ●研究開発費を少なくとも倍増
 防衛省は26中期防を受けて、防衛産業の維持・強化を図るため、平成26年6月に「防衛生産・技術基盤戦略」を発表した。しかし、同戦略が出来て以降、FMS調達はうなぎ上りに増加し、一方で企業の撤退・廃業が後を絶たない。同戦略を強化して、防衛力整備に反映できるようにしなければならない。もう待ったなしである。
 防衛産業の強化は研究開発と一蓮托生である。研究開発費を大幅に増加して、研究開発ビジョンを計画どおり進め、先進技術を獲得する必要がある。研究開発に費用対効果を厳格に適用することは適当でない。装備品の開発は友好国への移転を前提に考えるべきである。この関連で、F-2後継機の将来戦闘機事業は速やかに立ち上げて、計画どおりに終了するよう期待する。同事業は航空防衛産業にとって「闇夜の一灯」である。

 ●不可欠な企業の集約・統合
 防衛産業は大手から中小企業の集合体である。大手であっても企業の一部門であり、売り上げは小さく、企業経営への影響力は小さい。これでは大胆な事業運営や技術部門への投資等は期待薄である。他方、欧米企業は集約・統合を絶えず実施して、企業規模を拡大等している。国内企業が生き残っていくため、また世界規模のサプライチェーンに参入していくためには企業の集約・統合が不可欠である。これも急がれる。
 防衛産業は、装備品の開発・生産・運用・維持整備等を行う上で人的、物的、技術的基盤である。これがやせ細っては、いくら最新の米製ハイテク装備品を保有したとしても、総合的な防衛力は低下してしまう。バランスをとる必要があろう。また、諸外国等に政府が防衛産業を軽視しているような印象を与えることは、国家として決して良いことではない。防衛産業の強化が強く望まれる。