公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.10.21 (月) 印刷する

「用心棒の風呂焚き」を危惧する 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 用心棒として雇ったが、普段仕事がないので風呂焚きとして毎日便利に使っていたところ、ある日賊が入り、肝心の時に本来の役目が果たせなかったという話がある。
 相次ぐ台風の襲来に自衛隊が便利屋として使われている。入浴施設の提供や給水支援等は被災者の評判もよくメディアも好意的に扱っているが、浴場を提供する国軍は国際的に見ても稀有な存在である。副次的な任務に勢力や時間を費やしてばかりでは、本来の任務が疎かになりはしないか。
 筆者が防衛大教授であった8年間、当時の学校長は月一回の学生講話で災害派遣任務についてのみ語り、本来任務である国家防衛について殆ど語っていなかった。

 ●任務は拡大、隊員は減少
 2012年のデータであるが、人口1億以上の国における総兵員数の対人口比は、平均3.5%であるのに対し日本は一桁少ない0.23%である。
 加えて少子高齢化の中、警察官に比べて低い給料の自衛隊員は慢性的な募集難に陥っている。さらに国際的な比較では予備兵力が極端に少なく、第一線が倒れたら補充が効かないのが現状である。
 自衛隊創設以来の定員は不変であるが、実員は減少しており、その一方で任務は急増している。北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射に対する弾道ミサイル防衛や、国連制裁決議に基づくいわゆる「背取り」の取り締まり、尖閣諸島をはじめとする領海・領空侵犯への備え、アデン湾での海賊対処などがある。
 これに18日、安倍総理が検討を指示した中東地域への自衛隊派遣が加われば、実任務だけでも相当な負担である。東南アジア諸国に対する能力構築支援もあれば、「自由で開かれたインド太平洋構想」に伴うプレゼンス行動もある。
 派遣する部隊は小規模でも、整備や隊員の休養、そして訓練と展開する地域往復で派遣部隊の3倍の兵力が通常必要になるのである。
 加えるに最近の防衛大綱では、新たな戦闘領域として宇宙やサイバー、電磁波が加わった。最近、自衛官の不祥事が多くニュースに出ているが、募集難にともなう隊員の質の低下も背景にあるのではないか。

 ●お役所対応に振り回される
 台風15号で千葉県が甚大な被害を蒙った。当時、習志野の第一空挺団は災害派遣の準備を整え、千葉県庁に「災害派遣の用意あり」と2度に渡って通告していたが、県からの要請はなく、3度目に県からの依頼でやっと出動することになったと聞いた。
 台風19号の時も、給水車の必要性を事前に通知していた神奈川県山北町に対し、静岡県御殿場市の駒門駐屯地から給水車が派遣されたが、「知事からの派遣要請は未だしてない」とする県のお役所的な対応によって給水車は現地から引き上げざるを得なかった。県の給水車が到着したのは、それから5時間も後であった。
 数少ない自衛隊員の活用にもう少し融通は利かないものか。