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2020.01.06 (月) 印刷する

西岡氏に問う、「即時一括帰国」でいいのか 荒木和博(拓殖大学海外事情研究所教授)

 以下は先月27日付本欄で西岡力・救う会会長が書いた「共同通信の拉致報道に注意せよ」への反論である。
 政府認定拉致被害者田中実さんと特定失踪者金田龍光さんの情報を5年前に入手し、それを黙殺していたという共同通信の報道については様々な見方があろう。私は西岡氏と意見は違うが、それについてどうこう言うつもりはない。
 看過できないのは「部分帰国やさみだれ帰国、日朝共同調査委員会などは絶対に認められない」という点で、共同調査委員会についてはともかく、一部でも帰国させられる人は帰国させるのでなければ大多数を見殺しにしかねない。

 ●安倍政権は正しかったのか
 西岡会長は「助けを待っている被害者がいる以上、ぶれずに『全被害者の即時一括帰国』を求め続けていくしかない」というが、待っていても全員になるまでは放置するのか。その間に間違いなく北朝鮮で死んでいく人が出る。高齢の家族はなおのことである。
 この論文は安倍晋三政権の拉致問題への取り組みが正しかったという前提で書かれている。それならストックホルム合意から5年経って何も動いていないのは何故なのか。被害者の救出どころか1人の拉致認定もできないのは何故なのか。
 そもそも拉致問題以外でも対露外交や靖国参拝、消費税引き上げ、最近では中国の習近平主席の国賓としての招聘など、現実に安倍政権がやっていることは国民の期待を裏切ることばかりではないか。拉致問題だけが例外ということはありえない。
 それでも安倍政権を支持する人たちは「他に誰がいるのか」と言う。たしかに自民党であれ野党であれ、本当に任せて安心という政党、政治家はいない。しかし、それと安倍政権のやっている個別の政策を認めるのとでは意味が異なる。
 私たちも安倍政権に対して様々な要望はするし、協力できることはしているが、それは個別具体的にどうするという話であって、全体として信頼するということではない。もちろん次の政権がどうなろうが私たちの姿勢は同じである。

 ●可能なところから取り返せ
 拉致をされた人には様々なケースがある。日本海の海岸を歩いていたら偶然拉致されたなどというのは、あったとしてもごく稀なケースで、今帰国している蓮池夫妻も地村夫妻も曽我さんも皆、事前に狙いをつけられて拉致されている。そうやって連れていかれた人の中には、北朝鮮に何らかの関心を持って行った人も少なくないはずだ。どこまでを拉致被害者とするかなどという線引きも、そう簡単にできるとは思えない。
 拉致被害者全員の一括帰国というのは、北朝鮮が今の金正恩ではない指導者になり、よりまともな体制に変わり、国民全てが自分の意思を誰はばかることなく表明できるようにならない限りは不可能である。そこに至るまでは身代金の支払いから自衛隊による救出まで、硬軟とりまぜて、あらゆる方法を使って可能なところから取り返していくしかない。
 「全拉致被害者の即時一括帰国」は北朝鮮に要求する内容としては正しい。しかし実際の対応は柔軟に行わなければ「全拉致被害者の見殺し」になりかねない。共同通信の報道にあった田中実さんと金田龍光さん、そしておそらく他にももたらされていたであろう拉致被害者の情報について政府は明らかにし、救出への具体的な動きを進めるよう求めたい。