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2020.04.20 (月) 印刷する

一律現金給付で感染抑制はできない 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)

 政府は17日、緊急経済対策による2020年度補正予算案の閣議決定からわずか10日足らずで減収世帯に30万円を支給する措置を撤回し、異例ともいえる予算案の組み替えをして国民全員に一律10万円の現金給付を実施すると発表した。
 一貫性のない経済対策の混乱はコロナ感染の拡大抑制を遅らせ、終息後の経済回復を遅らせかねない。

 ●意味不明の「一律10万円給付」
 当初決定した減収世帯に対する30万円の現金給付は、所得減少などで経済的に困難な状況に陥り、社会のセーフティーネットでは十分に対応できない人々を救うという趣旨、つまり政府による行動規制(外出自粛や密閉・密集・密接を避ける行動)に起因する企業、個人の損失補填の性格を持つとすれば理解できる。
 では、所得制限なしの国民1人当たり一律10万円の現金給付に変更した理由はなんであろうか。
 安倍晋三総理は17日夕の記者会見で「国民みんなでこの状況を乗り越えていく。連帯して乗り越えていくということの中においては、一律10万円、まあ、全ての国民の皆さまにお配りをするという方向が正しいと、そういう判断をした」と説明しているが、減収世帯対策はどこに行ったのか。一律10万円給付の目的は何であろうか。

 ●バラマキでは真の困窮者救えず
 新型コロナウイルスによる感染ショックでも、全ての業種で一様に消費が落ち込んでいるわけではない。映画館・遊園地等の娯楽施設や鉄道・航空旅客、居酒屋などの消費が落ち込む一方、スーパー、医薬品、酒屋などは上昇している。一律の現金給付では本当に困っている企業や就業者を助けることにはならない。
 現金給付の目的は、収入減にさいなまれる企業、個人が急場をしのぐための支援であるべきだ。消費税減税も同様の問題をはらむ。
 30万円の減収世帯対策は、中小企業や個人事業主への現金給付とともに、金額の問題は別としても行動規制の実効性を上げるための柱となる施策である。その意味で、30万円の減収世帯対策を一律10万円給付へ切り替えることで、行動規制による感染拡大の抑制という本来の目的に逆行するリスクがある。
 一律10万円給付が「正しい方向」というのは何を意味しているのか。今、需要を喚起する対策は必要ない。一律の現金給付には高額所得者はもとより、所得の減少していない人も含まれる。ポピュリズム(大衆迎合主義)的なバラマキ以上の意味があるとは思えない。

 ●実効性ある行動規制につなげよ
 早期の感染抑制が最も効果的な経済対策である。そのために今なすべきは、医療分野への可能な限りの人的・物的資源の投入拡大であり、同時に行動規制による経済・社会活動の徹底した自粛である。
 その実効性を高めるには、一律10 万円を給付するより、行動規制によって不可避的にもたらされる売上・収入の大幅減少を被る企業・個人を重点的に保護する対策が有効である。企業、個人の協力を促すことで、結果として行動規制による感染抑制の実効性を上げ、経済回復の基盤を守り、国民全体を守ることにつながる。
 所得制限なしの一律10万円の現金給付の予算は、30万円の現金給付の約4兆円に対して約12兆円を超える規模になる。増加する約8兆円の予算は、今後の局面に応じた行動規制の持続を図るために活用すべきである。
 現時点で優先すべきは、早期の感染抑制を実現し、生活と雇用を守り経済・社会の機能を維持することである。政府には一貫した確固たる政策姿勢が求められる。同時に、われわれ一人ひとりが、国難に際して応分の犠牲を甘受する覚悟が求められる。