先頃亡くなられた台湾の李登輝さんと蔡英文総統のお2人には共通点があります。共に「台湾独立」を言わぬ点です。相違点は、言わぬ理由が違うことです。李登輝さんは、「時期尚早」でした。蔣家独裁を受け継ぎ、独裁期の外省人要人に取り巻かれているなか、それを切り崩して台湾人を登用し、独裁を多少とも民主化して行くのに精一杯で、台湾の自主独立まで飛躍する時間が足りませんでした。
蔡英文総統も米政権が中共を育てている間は「台湾海峡の現状を変更するな」ときつい圧力を受けていましたから、独立を言明せず、李登輝さん同樣、「台湾はすでに独立しているから、改めて言わなくてよい」と言いつくろい、「台湾は中華民国、中華民国は台湾」と唱えてお茶をにごしていました。でも、中共育成を止めて中共潰しにかかったトランプ政権になってもこの態度を変えていません。
台湾独立への二大前提
野党多数の国会を抱えて民進党色を出せなかった陳水扁政権と異なり、国会も多数を制した蔡英文政権は、なおも行政院長や国防部長など枢要な地位に外省人を据えました。民進党色をなかなか出せぬ蔡英文総統の政治指導に苛立った台独(台湾独立)派の元老4人(李遠哲、高俊明、彭明敏、吳澧培の各氏)が2019年1月3日、連名で新聞に公開状を発表して2020年の2期目の総統選に立候補する勿れと勧告しました。蔡総統は激怒したと伝えられますが、勧告を無視して立候補し、当選したことはご存じの通りです。
李登輝さんも蔡英文総統も「台湾は既に独立しているので、改めて独立をいう必要はない」と言いましたが、その通りでしょうか?
台湾が国家であることは間違いありませんが、「台湾は独立済み」という上で問題点が少なくとも2つあります。第1に、国際的に公認されていないこと(だから国際組織に加盟できない)。第2に、国内の枢要な地位に中共政権と通じかねない外省人(台湾人であることを受け入れず、台湾は中国の一部と考える人たち)が居坐っていることです。
蔣介石が台湾に避難した時、台湾の枢要な地位(国防・外交・警察・公務員・教員)に例外なく外省人を据えました。その後、時が経ち、台湾人がそれらの地位にかなり進出はしましたが、まだ中枢は外省人が握っています。
蔡総統の自立意識を疑う向きも
第1の、台湾の国際的地位に関して決定的な鍵を握るのは米国です。だから米国が中共育成をやめ、中共政権潰しにかかった今、台湾は一国として公認される好機を迎へています。ですが、台湾がまともな独立国になるには、通敵者を排除し、愛国者で政権を確立せねばなりません(実は我が国も同じく通敵者を抱え込む問題あり)。
その問題の前に、蔡英文総統の立場への疑惑があることに触れておかねばなりません。
先日の双十国慶節での総統演説を、台独派は絶賛します。20分の演説ですが、日本の台独派は「鳥肌が立つほど感動的」「独立を宣言しない独立宣言」と絶賛しました。でも米国で台湾を観察し続けている台湾派のアンディ・チャン氏は疑義を唱えます。
チャン氏によれば、蔡英文総統は、蔣家独裁時代に政権に密着し手先となって働いていた父の関係からして、台湾自立派ではありません。中華民國の正統派、つまり蔣介石(軍事情報系)・宋美齢(国際金融系)の傀儡であり、“外省人の第三世代”に相当する人物だというのです。
私はこの説に半信半疑ながら、蔡英文総統が台湾自立についてあまり熱心でないことを説明する一つの仮説と考えています。