公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.10.19 (月) 印刷する

北の核・ミサイルを過小評価するな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 北朝鮮は10月10日未明に軍事パレードを行い、世界最大級の大陸間弾道ミサイル(ICBM)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を走行させた。この両弾道ミサイルに関して12日夕のBS-TBS番組「報道1930」で朝日新聞編集委員の牧野愛博氏は、ICBM搭載車両は主要道路を走行出来ないばかりか橋も渡れず、またSLBMも搭載すべき潜水艦がままならず順序が逆転していることから、単に米国に向けて展示する事が狙いではないかと述べた。また慶應大学教授の西野純也氏も弾道ミサイルは多弾頭ではないとする分析があると指摘していた。

しかし、これには過小評価に過ぎる。北朝鮮の弾道ミサイルは核弾頭が搭載可能で、数百発もの弾道ミサイルが日本を射程に入れているというのが筆者の見方だ。金正恩の胸先三寸で多くの日本人が殺傷される脅威下に日本は置かれている事を強調しておきたい。

多弾頭の可能性は極めて高い

筆者は在米日本大使館の防衛駐在官時代の1999年、国防武官団の視察旅行でワイオミング州にある第90戦略ミサイル航空団の基地を訪れたことがある。写真(下)は、その際に見学したICBM弾頭の実物大模型である。ちなみに右に立っているのが筆者である。

当時、基地に配備されていたICBMのうち、ミニットマンⅢの弾頭部に搭載できる弾頭数は3発、ピースキーパーに至っては10発であった。今回、北朝鮮の軍事パレードに登場したICBMは、これよりさらに一回り長く太いサイズである。これが多弾頭ではないとする根拠は一体何なのか。

確かに北朝鮮では、あのサイズの搭載車両が走れる道路は少ないであろうし、橋梁通過も難しいだろう。しかし問題は、移動ができる分、捕捉が難しくなるという点だ。潜水艦も海中を潜行して移動するために常時、追尾・探知することは難しい。

〝張りぼて〟と侮ってはならず

中国の最初のSLBMである巨浪1号(JL-1)はICBM東風21号(DF-21)を潜水艦搭載用に改造したミサイルであるが、開発着手は1967年であった。そして搭載潜水艦である夏級潜水艦は1970年から1981年にかけて建造されている。

中国が保有する最新のSLBM巨浪2号(JL-2)も、ICBMのDF-31を改造したもので、開発が始まったのは1980年代中期からだ。搭載潜水艦の晋級の就役は2007年である。北朝鮮だけがSLBMと搭載潜水艦の完成順が逆転しているということにはなっていない。

昨年、北朝鮮は金正恩も写っている巨大潜水艦の写真を公開したが、現在、新浦南造船所で建造中の戦略核弾道ミサイル搭載潜水艦はSLBMを搭載するのに十分なサイズである。

要するに、今回の軍事パレードに出現した北朝鮮のICBMやSLBMは、単に米国に見せるだけの〝張りぼて〟と断定するのは誤りだということを指摘したいのである。

日本としては、米国がニューヨークや首都ワシントンを犠牲にしてまで我が国を守るのだろうか、という事についても真剣に議論を始めるべきだ。