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2020.11.09 (月) 印刷する

プロパガンダ化した米メディア報道 石川弘修(国家基本問題研究所理事・企画委員)

米大統領選挙は、民主党のバイデン前副大統領が現地時間7日夜、勝利宣言を行い、混戦に決着をつけたと米メディアは報じた。しかし、トランプ大統領はメディアの予測をはるかに上回る接戦を展開、敗北は認めていない。今回の選挙戦を通して浮き彫りになったのは、バイデン氏を強くバックアップした主要なテレビ、新聞がまるでリベラル民主党のプロパガンダ機関の様相を呈したことだ。

毎回、多くのメディアが支持する候補を明確にするが、今回は、バイデン支持を表明したのはニューヨーク・タイムズ(NYT)、ワシントン・ポストなど多くの主要紙を含む119紙(10月28日時点、産経新聞)。これに対し、トランプ支持を宣言したメディアは、ワシントン・タイムズ、NYポスト、ボストン・ヘラルドなど、限られている。そのうえ、ABC、CBS、NBC、CNNなど大手テレビ局は、フォックス・ニュースを除いて、すべてリベラルで、反トランプ・メディアが圧倒的に多い。

バイデン疑惑はほぼ黙殺

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は10月30日付オピニオン欄で、「メディアはバイデン氏の親衛隊か」と題したジェラルド・べーカー前編集局長の論考を掲載、「2016年の前回選挙で多くのメディアがヒラリー・クリントンの勝利確実と報じて大恥をかいたのは、報道に携わるジャーナリストの多数が民主党を支持しているからだ」と述べ、主要メディアが報道の客観性や公平性から大きく逸脱している問題を指摘した。

とりわけリベラルと保守系でメディアの違いが明白だったのは、保守系のNYポストが報じたバイデン親子の外国企業絡みの金銭疑惑をリベラル・メディアがほぼ黙殺したことだ。その理由について米ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)のテレンス・サミュエルズ・ニュース担当局長は「記事の内容が本当かどうか確認されていないニュースのことで我々の時間を無駄にしたくない。リスナーや読者を混乱させたくもない」と言い訳している。

では、ロシア大統領府がトランプ応援のために大掛かりな工作をしていたという4年前のいわゆる「ロシアの陰謀」について、リベラル・メディアが執拗に報じていたのは、はっきりした証拠があったからなのか。連邦下院情報委員会は最終的に「根拠なし」と結論づけている。

「メディアが現実作る」

WSJのベーカー氏は、保守系ラジオ政治番組の司会者であるマーク・レヴィン氏の著書「失われた報道の自由」の抜粋を紹介、ニュース・ルームには「トランプは民主主義にとって他に類を見ない脅威であり、自分たちはそれに応じた異例の手段を取らざるを得ない」という空気が強いと指摘する。

トランプ大統領には粗雑な言動があり、新型コロナウイルス禍の対応に疑念が生ずるのを否定するわけではないが、だからといってリベラル・ジャーナリズムの偏狭な社会正義感が公平な客観報道をゆがめてよいのか。

8日早朝までもつれたペンシルベニア、ジョージアなど5州の開票結果は、バイデン、トランプ氏の得票率差はいずれも1%前後の僅差だった。「メディアが現実を作り上げる」(レヴィン氏)とするなら、一体勝者はどちらなのか。