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2020.11.04 (水) 印刷する

中国との学術協力、政府自ら安全保障判断を 細川昌彦(明星大学経営学部教授)

 米中による輸出管理をめぐる規制の応酬で、日本企業が翻弄されている。

中国の輸出管理法が10月17日、全国人民代表大会(全人代)で成立し、12月1日に施行される。中国に対して輸出管理を武器に振りかざす米国への対抗措置としている。米国に対峙する自信をつけた中国が「域外適用」を明確に打ち出したことは深刻だ。

米中という2つの大国が力を背景に他国を自国の判断に従わせようとする。日本など第三国は相反する両大国の域外適用で“股裂き状態”になる。まさに「パワーゲームの世界」で、「ルールによる国際秩序」の危機だ。

民間だけにリスク負わせるな

米国の部品、技術を組み込んで中国に輸出する第三国企業に対し、米国の許可を求める再輸出規制はこうした域外適用の一つだ。中国の通信機器大手ファーウェイへの制裁の“抜け穴”を防ぐためだ。

中国がこの米国の再輸出規制を真似て導入したのが今回の輸出管理法だ。中国原産の部品を日本に輸入して組み込み、再輸出している日本企業も多いが、今後は中国の許可が必要になり、ビジネスの予見可能性がなくなる。

こうした米中の再輸出規制や制裁の脅しで日本企業が“股裂き状態”になるのを、日本政府は手をこまねいていてはいけない。主権国家として政府自らが安全保障の判断を迫られていることを自覚すべきだ。

これまでの輸出管理は軍事用途に使われるかどうかをチェックしていればよかった。ところが、軍民融合を進める中国にはこれでは対応できない。日本も米国と同様に「軍事用途の規制」から「懸念者に対する規制」に踏み出す時期に来ている。

安全保障上の懸念のある中国企業かどうか、企業から相談を受ければ、日本政府として判断を伝えることが大事だ。中国の反発を恐れて企業の判断に委ね、リスクを民間にだけ負わせていてはいけない。

問われる中国との向き合い方

同じことは中国の大学、研究機関との共同研究についても言える。日本の大学の研究者の中には、中国の人民解放軍と密接な関係にある、いわゆる「国防7大学」とも共同研究をしている者が少なからずいる。

軍民融合の中国との安全保障上の懸念がある研究協力は決して放置されるべきではない。文部科学省はその実態さえも把握していない。日本政府自らが大学に対しても、中国の大学、研究機関について、研究協力の相手としてふさわしいかどうか安全保障上の判断を示すべきだろう。

そのためにはインテリジェンス機能の強化も大事だ。実は今でもある程度、インテリジェンス情報は輸出管理では欧米各国と共有されている。問題はむしろ、これらが広く政策に活用されていないことだ。日本政府はこれらの情報を活かし、腹をくくって各分野で自ら安全保障上の判断をすることが迫られている。

問われているのは、政治をはじめとする、そうした中国との向き合い方だ。