公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.11.16 (月) 印刷する

海自と海保の相互運用性確保を急げ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 菅義偉総理は12日に米大統領選挙で当選を確実にしたバイデン前副大統領と電話会談を行い、この中でバイデン氏は沖縄県石垣市の尖閣諸島について、米国の日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲であるとの見解を示した。会談終了後、首相が記者団の取材に対して明らかにした。

2008年に初めて中国の海上法執行機関である海警局(海警)公船が尖閣諸島の領海を侵犯した時には大々的に報じていた日本のメディアも、最近では余り大きく報じなくなり、一般国民の危機意識は低下している。一方で中国は、心理戦、メディア戦、法律戦のいわゆる「三戦」の内、とりわけ法律戦で大変な攻勢をかけており、自主的な努力で海警船の侵攻を阻止する手立てを講じなければならない。

海警の海軍化進める中国

中国の国会に相当する全国人民代表会議は4日、海警の権限強化を定めた海警法草案を公表したが、その中で外国船が中国の管轄する海域で違法に活動し、停船命令に従わない場合は武器を使用できると明記した。中国は尖閣諸島を自国の領土とみなし、尖閣の我が国領海で漁業を行なっている日本漁船に対しても武器使用できるようにしたのである。

また2018年に中国共産党中央委員会が公布した「党及び国家機構改革案」によれば、それまで国家海洋局の隷下にあった海警が、軍事組織の根幹とも言える中央軍事委員会の指揮下にある武警部隊の隷下に入った。

さらに2019年には海警のトップには中国海軍で東シナ海を管轄する東海艦隊出身の王仲才少将が就任し、かつ海警の船は嘗ての軍艦を転用していることから、ますます海警の第二海軍化が進行している。

こうした情勢で、海警に対峙している日本の海上保安庁は、海上保安庁法25条で軍隊として組織・訓練することを禁じられている。占領下、連合軍司令部の諮問機関である対日理事会でソ連代表のレビヤンコ政治中将が、日本弱体化を目的に挿入を強硬に主張したことによる。日本は独立後も、この条項に手を付けてこなかった。これでまともに中国と対抗できるのだろうか。

海保法25条の改正不可欠

海保の巡視船の捜索機器は水上レーダーだけで、上空から侵入する航空機やヘリコプターを探知できる対空レーダー、潜水艦を探知するソーナーは保有していない。また、これらを装備している海上自衛隊の艦船からリアルタイムに情報を入手し、表示する指揮通信統制機器も持っていない。

それ以上に問題なのは、海保法25条に由来する犯罪取締・犯人検挙のメンタリティーで国土や主権を守ろうとしている点である。中国海警の侵攻に対応するには、まず海保と海自間の相互運用性を確保することだが、それを進めるためには連合軍が押し付けた海保法25条の改正が不可欠だ。
 

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