自民党の高市早苗政調会長が中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権侵害行為を非難する国会決議について、17日召集の通常国会冒頭で採択することを目指す考えを表明した。昨年の通常国会、臨時国会と二つの国会で見送りとなっただけに、高市氏にはイニシアチブを発揮するとともに、決議案の文面についても見直してほしい。
骨抜きになった対中人権決議案
高市氏は11日に出演したBSフジ番組「プライムニュース」で、「中国は覇権主義的な姿勢や人権問題について何ら改めていない。(今年が日中国交正常化)50周年だからといって、それらの問題に対して何の対応もしないことはあり得ない」と強調した。まさにその通りであろう。
高市氏は非難決議案の採択を目指してきたが、岸田文雄政権になっても実現していない。それどころか、決議案の内容そのものが骨抜きにされている。
国家基本問題研究所の櫻井よしこ理事長が15日に日本ウイグル協会で講演したなかで指摘したように、公明党の要求を受けて、非難決議案から「非難」の2文字が削除された。「人権侵害」の即時停止を求めた部分も、中国当局に「人権状況」の説明責任を果たすよう求める内容に変えられた。櫻井氏は「こんなことが世界第3の経済大国であり、文明国で、人権や法の支配を大事にする日本で行われている。本当に情けない限りだ」と批判した。
岸田首相、茂木敏充幹事長は、こんな内容の決議案ですら、臨時国会での採決を認めなかった。茂木氏は高市氏に「内容はいいが、タイミングの問題だ」と語ったという。内容のどこがいいのか、茂木氏に問いたい。
岸田首相は9月の自民党総裁選での公約で「台湾海峡の安定・香港の民主主義・ウイグルの人権問題などに毅然と対応。日米同盟を基軸に民主主義、法の支配、人権等の普遍的価値を守り抜き…」と掲げたはずだ。10月の衆院選での自民党公約でも「ウイグル、チベット、モンゴル民族、香港など、人権等を巡る諸問題について、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めます」と明記した。
岸田首相は「聞く耳」をアピールしているのだから、家族と突然会えなくなった在日ウイグル人たちの話を直接聞いてみたらどうか。
ウイグル人らの人権問題の深刻さをよく知る高市氏には党の政策責任者として、変更された決議案では到底容認できないとして、文面を再変更するよう求めたい。政治には時に妥協は必要だが、日本の国会が深刻な人権侵害を非難し、抗議の声すら上げられないことは本当に恥ずかしいことだ。
基本姿勢、理念見えぬ岸田首相
高市氏に期待することはほかにもある。岸田政権は国家安全保障戦略などの改定を7月の参院選後に行う。弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力」保有が焦点となっており、公明党が慎重姿勢を示しているため参院選後にした。岸田首相は昨年の臨時国会の所信表明演説で「あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感を持って防衛力を抜本的に強化していきます」と表明したが、ここでも公明党への配慮が目立つ。
ここで高市氏がトップを務める政務調査会の安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)の議論が大きな意味を持つ。5月頃には政府への提言をまとめる。岸田首相は提言について「しっかり受け止めて、今後の国家安保戦略を含めた安保の考え方に反映させたい」と述べている。公明党に気兼ねすることなく、喫緊の課題である「敵基地攻撃能力」の保有問題などを打ち出すべきだ。高市氏はここでもイニシアチブを発揮してほしい。
財政問題でも高市氏の踏ん張りに期待したい。高市氏は政調内に「財政政策検討本部」を発足させた。「再建」という文字を外すなど積極財政路線を明確にした。対して、岸田首相は総裁直轄機関として「財政健全化推進本部」を立ち上げ、高市氏を牽制する。岸田首相は昨年12月、わざわざ推進本部の役員会に出席し、「財政は国の信頼の礎だ。足元の新型コロナウイルス対策と中長期的に財政健全化を考えることは決して矛盾しない」と強調した。
首相は18歳以下への10万円給付問題など与党との調整を高市氏ではなく茂木氏に任せるケースが目立っている。もちろん岸田政権であり最終的には岸田首相が判断し、高市氏も従わなければならないが、党の政策決定には政調会長の了承が必要であり、高市氏の役割は大きい。
岸田首相には基本姿勢、理念が一向に見えてこない。政策決定においても世論の反応をみながら変更しても、それを臨機応変、柔軟だと開き直る。それでは長続きはしない。高市氏には堂々と政策を掲げ、それを記者会見などで公表し、首相と考えをぶつけ合い説得し実現していくことに努めてほしい。