公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

  • HOME
  • 国基研ろんだん
  • ルーブル決済はプーチン氏にも両刃の剣 田村秀男(国基研企画委員 産経新聞特別記者)
2022.04.01 (金) 印刷する

ルーブル決済はプーチン氏にも両刃の剣 田村秀男(国基研企画委員 産経新聞特別記者)

ロシアのプーチン大統領は「非友好国」に対し、ロシア産天然ガス輸入代金をロシアのルーブル建てで払えと要求している。サハリンからの液化天然ガスを輸入する日本も例外ではない。

プーチン氏の狙いは米欧日の分断だが、ロシア産ガスのへの依存度が高いドイツなど欧州はルーブル払いを拒否し、従来通りのユーロ決済で通す態度を崩さない。プーチン氏は押し通せないようだと、一方的にガス供給を打ち切る挙に出かねないが、日本はたじろがずに欧米との同一歩調をとる覚悟を持つべきだ。

ロシア金融界にも異論噴出

ルーブル払いは、西側の金融制裁を受けて急落したルーブル相場を反転させるとする見方が市場では多い。欧州が巨額の天然ガス購入代金をルーブル建てにすれば、外国為替市場でルーブル需要が高まるからだ。

その場合、ロシアの商業銀行が欧州などの銀行が差し出すユーロやドルなど外貨(ハードカレンシー)との引き換えにルーブルで支払うプロセスになる。ロシアの商業銀行はロシア中央銀行に外貨を売って、ルーブル資金の供給を受ける。したがって、ロシア中央銀行は外貨準備を増やすことができ、外為市場でルーブルを買い支えられるという。

西側の対露金融制裁は、一部を除くロシアの銀行の外貨取引を禁じると同時に、米欧日の中央銀行に預けられているロシアの外準資産の半分以上を凍結している。このために、ロシア側はルーブル市場への介入が制約されてきた。

だが、天然ガス決済がルーブル建てになったとしても、ルーブル相場が安定し、制裁で大打撃を受けているロシアの経済が好転するとは限らない。金融制裁が続く以上、外貨の調達が困難であることに変わりはないからルーブル不安はつきまとう。金融面で見れば、ルーブルで代金を支払う西側はロシアに対してルーブル建て債務を、ロシア側はルーブル建て債権を抱えることになるが、ルーブル安になれば西側が為替差益を、ロシア側は差損を被る。

この為替リスクヘッジはデリバティブ(金融派生商品)など手段が多様化しているロンドンなど西側市場では臨機応変に対応できるかもしれないが、ルーブルの国際取引や金融規制が厳しいロシア国内市場ではほぼ無理である。ルーブル決済はロシア側にとっても両刃の剣であり、ルーブル払いに固執するプーチン氏に対する異論はロシア金融界に噴出してもおかしくはない。

なぜ天然ガス決済だけなのか

ちなみに、本格的にロシアがルーブル決済を西側に強要するつもりなら、原油の輸出決済もルーブル建てにすればよい。原油の輸出額は年間1000億ドル以上で、天然ガスの2倍を超えるのに、プーチン氏が原油についてルーブル払いにする気配はない。ロシア産原油に大きく依存する石油消費国はほとんどないし、消費国側も比較的容易に中東産などの原油に転換でき、ロシアは輸出先を失いかねない。

その点、天然ガスは買い手に弱みがある。特に長期契約のもとに、パイプラインで供給を受ける欧州各国はロシアに代わるガスの代替源を短期間では確保できない弱みがある。プーチン氏はそこにつけ込んで、ルーブル払いを強要し、西側の対露制裁網の切り崩しを図ったわけだ。

国内の天然ガス消費のロシア産依存度は、G7では2020年でドイツ58%、イタリア40%に上る。東欧は全般的に高く、ハンガリー、ラトビアは100%、ポーランド43%、チェコ86%、スロバキア75%という具合である。ドイツ、イタリアは契約がユーロ決済であることを理由に徹頭徹尾ルーブル払いを拒否し続けるだろうが、東欧の一部が応じる可能性は残されている。

日本含む西側の結束不可欠

日本の場合も、岸田首相の膝元である広島ガスはサハリン産天然ガスに半分以上を依存しているという(3月29日付け米ウォールストリートジャーナル電子版)。

今後の焦点は、プーチン氏の出方だ。ドイツやイタリア、さらに同じく「非友好国」とみなす日本にもルーブル払いでなければ、供給を打ち切ると通告する可能性がないわけではない。プーチン大統領は3月25日付けで、国営ガス会社のガスプロムに対し、欧州向け天然ガス輸出の代金をルーブルで受け取るよう命じ、4日以内に決済システムを構築するよう要求している。このままロシア側が引き下がるようであれば、強権を振るうプーチン氏の権威が揺らぎかねない。

今後も天然ガスをめぐるプーチン氏とG7の駆け引きは険しさを増すだろうが、西側が結束すればするほどプーチン氏は政治的に追い込まれるに違いない。日本を含めG7は一歩でも譲歩は禁物だ。