何故、ウクライナでロシアは苦戦しているのか?これを『孫子の兵法』から立証してみたい。
「五事」で戦う前に勝敗判る
「兵は国の大事、死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり」の有名な言葉から始まる『孫子の兵法』の、次に書かれている「これを経るに五事を以ってし」の「五事」によって、戦う前からロシアが苦戦することが窺える。
「五事」とは「道」「天」「地」「将」「法」だ、と孫子は説く。「道」とは「民をして上と意を同じうし、これと死すべくこれと生くべくして、危わざらしむなり」とある。正当な戦いに基づく士気である。今回、ゼレンスキー大統領の下でのウクライナ国民の状態であり、「訓練」だと言われて極東から連れてこられ、ベラルーシからウクライナに侵攻したロシア兵と異なるところである。従って、本来破壊して撤退すべきである電子戦兵器までも簡単に放置したままにしている。
「天」は天象・気象である。雪解けの泥濘に嵌って動けなくなったロシア戦車を見るにつけ、ロシア軍は戦うべき時に戦ってない。
「地」は地の利である。東部戦区から連れてこられ、ベラルーシからウクライナに侵攻したロシア軍に全く土地勘はなかった。
「将」に関して言えば、ロシア軍のゲラシモフ参謀総長が2014年末に策定したドクトリンは、現代のハイブリッド戦を効果的に戦う上で極めて良くできており、この通りにウクライナとの戦いを進めていけば有利に戦いを進められたのに、これと乖離したプーチンの戦争指導で大失敗を犯している。しかも多方向から侵攻するロシア軍に統制された行動が窺えない。
「法」とは幅広い意味でのロジスティックである。ロシア側の後方支援がうまく行っていない事がロシア軍苦戦の大きな要因だ。逆にウクライナ側は、米国から能力支援を受け戦力を構築してきたことは、ウクライナ戦前に出版された最新の米国防大学出版「Joint Force Quarterly」(四半期統合軍)の記事「ウクライナ軍内の制度的能力構築-米提供機器に関する持続的計画(Building Institutional Capacity in the Ukrainian Armed Forces-Sustainment Planning for U.S. Provided Equipment-)」からも明らかである。
隙あれば則ち国必ず弱し
謀攻篇第三には「リーダーと補佐役との間に隙間があれば弱い」とある。プーチン大統領と、軍のトップであるショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長との会談映像では、物理的に大きな距離があったことは、映像を見た読者は認識しているであろう。
引き続いて「軍の進むべからざるを知らずして、これに進めと謂い(略)是れを軍を縻すと謂う」とある。明らかにプーチンの戦争指導に軍は、その後に記されている軍士が「惑い」「疑い」「勝を引く(身方の勝利を失う)」ことになっている。