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国基研ろんだん

2022.03.28 (月) 印刷する

核共有の議論を封じるな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

安倍晋三元総理が「核共有についての議論を喚起すべき」と先月末のテレビ番組で述べたところ、世論調査では約8割の人達が議論すべきとの意見であった。

しかるに自民党の安全保障調査会が今月15日に第1回目の会合を行ったものの、会合を取り仕切る幹事長代理は、会合はこれで打ち切る旨の発言をしたと報じられている。

非核三原則の見直し不可欠

会合では有識者が「陸上に核を配備すれば敵の格好のターゲットとなると共に、住民の反核運動が盛り上がるというディメリットが大き過ぎる。また欧州型の核共有は戦闘機搭載型なので、せいぜい行動範囲は500キロ程度であり日本の地理的条件には馴染まない。配備するなら洋上にすべきだ」とする意見が開陳されたとされている。

1980年前後に旧ソ連が中距離核戦力(INF)のSS-20を配備した時、米国は既に核弾頭搭載可能な洋上発射型巡航ミサイルのトマホークを戦力化していたので、第6艦隊の核搭載艦を地中海あるいはバルト海に遊弋させることは可能であった。

しかし、当時のシュミット西独首相は、国内の反核運動を予期しながらも、パーシングⅡ弾道ミサイルと陸上発射型巡航ミサイルのトマホークを配備するという「二重決定」を行った。その背景には、上記有識者発言にあるディメリット論を退けるとともに、米国の拡大抑止力の信頼性を高め、あわせてソ連にINF撤去を求める明確なメッセージを伝えるという判断があった。

仮に日本における核共有が潜水艦発射あるいは艦船搭載型を想定した場合でも、現在グアム島に配備している3~4隻の米攻撃型原子力潜水艦(SSN)の主任務は、主として海南島を母港としている中国の大陸間弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)に対処するためである。約2000発の中国INF(弾道ミサイル1250発+巡航ミサイル)への抑止力として中国近海に貼り付けることは兵力的に無理がある。イージス艦を常に洋上に貼り付けられないのでイージス・アショアが開発された経緯と同じである。

横須賀や佐世保を事実上の母港とする米海軍水上艦に核を搭載する場合でも、非核三原則の「持ち込ませず」に修正を加えなければならないことは明らかで、その場合には陸上配備と同程度の反対世論を予測しなければならない。

国産ミサイルに米核も選択肢

ロシアのウクライナ侵略と、それに対する国際社会の反発をつぶさに観察している中国では、台湾に対する武力行使のハードルは高まっていると見られ、デービッドソン前米インド太平洋軍司令官が予測した2027年までにというタイムラインはズレ込むことが予測される。

これまで日本の弾道ミサイル開発は、専守防衛という縛りによって不可能で、インド太平洋地域での中国への抑止力を強化する米「太平洋抑止イニシアチブ」(PDI)による中距離弾道ミサイルの日本配備しか選択肢がなかった。しかし、年内に見直す予定の国家安全保障戦略で「攻撃能力」の保有が認められ、日本独自の弾道ミサイル開発が可能となれば、米国の核弾頭と日本の弾道ミサイルによる日本版の核共用という選択肢もありうる。戦闘機搭載型の欧州型核共有のように「足」が短いという欠点も克服できる。さらに核弾頭搭載の米爆撃機を空自戦闘機が護衛する訓練を頻繁に行うという形での核共有の方法もあるはずだ。

要するに核共有については、具体的な方法論も含めて事前に議論をしっかりしておく必要があるということだ。議論を封じて「国是である非核三原則の堅持」だけでは、この大変化の国際情勢に対応できない。

「唯一の被爆体験国であるが故に」という情緒的な議論が先行しがちだが、国をどう守っていくかという具体論こそ死活的に重要であり、最優先すべきことだ。武力による台湾併合を企図している中国には対話は機能しない。
 
 

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第107回 核共有議論について

先日の自民党安保調査会では議論を打ち切り。これで終わりは思考停止と同じ。冷戦期の反核ドイツが陸上配備を決断した経緯を見直すべし。議論継続は国益上絶対必要だ。