月例研究会/令和4年2月9日/東京・内幸町イイノホール
安倍晋三元首相に聞く ― 日本の行方
令和4年2月9日、国家基本問題研究所は定例の月例研究会を東京・内幸町のイイノホールで開催しました。中国武漢発の新型コロナウイルス感染症への対策を施しながらではありますが、2年半ぶりの有観客の会となりました。盛大な拍手に迎えられ、安倍晋三元首相が登壇。冒頭約40分にわたる安倍元首相の講演、その後の質疑応答の抜粋をご紹介します。
安倍 晋三(あべ しんぞう) 1954年、東京生まれ。成蹊大学法学部政治学科卒業後、(株)神戸製鋼所を経て、1993年、衆議院議員初当選を果たす。現在、当選10回。自由民主党幹事長、内閣官房長官などを歴任。2006年、第90代内閣総理大臣、2012年から第96代、第97代、第98代内閣総理大臣を務め、2020年9月退任。首相在任期間は連続及び通算とも歴代最長。 |
安倍晋三 元首相 今年末で国基研設立十五年ということですが、十五年前と言えば第一次安倍政権が終わった年です。あれから十五年経つのかなと思う次第です。
今年度予算の防衛費は、補正予算と来年度予算を合わせると初めて六兆円を超えました。補正予算で七千七百億円。我々はこうした防衛努力をしなければならない安全保障環境にあります。
第一次安倍政権ができたそのとき、私の頭の中にあった安全保障・外交における最大のテーマは何か。それは台頭する中国とどう対峙をしていくか、どう対応していくかということです。
中国が経済において台頭していくことは、ルールを守っている限り、日本にとってはチャンスです。日本は輸出をしたり、投資をしたりして大きな利益を上げている。もちろん中国も日本の投資によって雇用を生み出しています。あるいは中国は、日本しかできない半製品を輸入して、それを加工し世界に輸出をして利益を上げています。いわば日本と中国は切っても切れない関係と言ってもいいと思います。お互いにしっかりと良好な関係を保ちつつ緊密な人間関係、経済関係等をつくっていく、未来志向でつきあっていくことはプラスです。これが「戦略的互恵関係」です。
しかし一方、安全保障面においては、中国は短い年限で防衛費をどんどん、どんどん増やしてこの三十年で四十三倍にしています。この中国にどう対応していくか。まずは日本の努力が必要です。日本が努力をしなければ、他国にその努力を求めても、あるいはこのインド太平洋地域における中国の問題点を日本が指摘しても、誰も聞く耳を持たない。「安全保障上の脅威と言いながら、あなたたちは全然、何もやっていないじゃないか」となるわけで、まずは私たちの努力が大切だろうと考えました。同時に日本だけの努力では不十分ですから日米関係を強化していく。
第一次政権は一年間で終わってしまったので、このときは残念ながら防衛費を増やすこともできず、日米同盟をさらに強化することについては十分ではありませんでした。でも、そのとき、いわば日米豪印のクアッド(Quad)についての調整がスタートしたのです。クアッドの考え方を当時のブッシュ米大統領にも述べ、インドのシン首相にも、また豪州のハワード首相にも話をさせて頂きました。
ハワード首相には大変、理解をしていただきました。しかし、インドは非同盟という外交方針があり、非常に慎重だったんですね。ブッシュ大統領は理解をしてくれたのですが、ライス国務長官が北朝鮮に対する六者協議の中において中国に役割を果たしてもらわなければいけないと慎重な立場でした。結局、局長級の会議で終わってしまいましたが、それは何とかスタートさせることができました。しかし、その後、このクアッドについては沙汰止みになってしまったわけです・・・