公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2022.09.20 (火) 印刷する

世界の選択:EVかハイブリッドか 伊藤澄夫(伊藤製作所社長)

20世紀末まで「世界の進んだ工業製品は生産のほとんどを日本が抑えていた」と平成生まれの若者に言っても、理解してもらえないだろう。造船や弱電、半導体、金型など多くの工業製品の生産が21世紀に他国に移った。移った理由は日本の怠慢ではなく、他国からの誘導だった。

1985年のプラザ合意による超円高誘導があった。米国のスーパー301条発動による法外な関税の適用もあった。米国の負け戦と言われたベトナム戦争で、日本は我関せずと金儲けに没頭し、対照的に韓国は30万人もの兵士を送り、米兵と共に戦った。これに恩義を感じたのか、米国は日本の半導体生産工場を韓国に移転することをもくろんだ。国家間の友好を保つには共に戦う事が大切ということだろう。

中国を甘く見た西側諸国

米国が日本から輸入していた雑貨を中国からに変更し、米国の多くの工場が中国に進出したのもこの頃だ。米国は「中国を豊かにすればよい国になる」と考えていたらしいが、絶対に誤りだ。21 世紀に入り、中国の軍事費は日本の何倍にもなった。

米国や日本、その他の先進国が中国をしたたかな国と認めないと、今後手の付けられない国になると私は一人で心配していた。大学の講義でこの話をしたところ、80%の学生に反論された。所属する金型工業会で伊藤は右翼だと言われたのもこの頃だ。

それから20年、安倍晋三首相がトランプ米大統領に中国の本性を説いたと聞き、嬉しく思ったが、手遅れだろう。民主主義諸国が中国からの輸入を規制すれば、荒っぽい中国軍も大人しくなるだろうに。

世界に誇れる日本の技術

現在、日本の元気なモノづくりは何だろう。半導体製造装置を含めた精密工作機械、優秀な国産車、カメラやスマートフォンの機能部品とレンズなどを挙げることができる。中でも国産のハイブリッド車は世界に冠たるものだ。技術の幅広さ、雇用の多さ、税収や外貨獲得への貢献を考慮すれば、これ以上の製品は見当たらない。

世界が認める超優良企業に対し、例の口先だけの若者政治家がまたおかしな発言をした。「世界のカーメーカーはEV(電気自動車)に力を入れているが、乗り遅れたトヨタは何をしているのだ」と。

トヨタは、プラグインハイブリッド車からエンジンを下ろし、バッテリーを増やせばEVに様変わりする機種を多く持つ。この政治家は日本車の幅広い技術を知らず、EV の問題点に注目せず、上から目線での自分の発言に気を良くしているのか。かつてマスコミや一部の議員が、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の発足に乗り遅れるな、と警告したことに似ている。

世界は日本車の優位性にかなわないと判断し、EVを押し立てて日本車つぶしに出たのは明らかだ。日本から自動車産業がなくなれば、国家としての存続は事実上不可能と言ってよいだろう。産学官が一体となり、この世界経済戦争に立ち向かわねばならない。そんな時期、若者政治家の発言を「許せない」で済ますことはできない。(了)