4月26日に中国では反スパイ法が改正され、7月1日から施行される。この法律によりスパイ行為の定義が拡大して、取り締まりが一層強化される恐れがある。反スパイ法は習近平政権下の2014年に施行され、それ以降、少なくとも17名の日本人が拘束された。
多くの国にはスパイ防止法があり、自国民が中国にスパイ容疑で拘束されても、自国が拘束した中国人スパイと交換に自国民を解放してきた。しかし、日本にはスパイ防止法がないために、それができない。4月10日の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「中国で拘束されるのは日本人だけではないが、日本の場合、事実上ごく普通のこととなっている」と報じた。
中国の矛先は日本に
日本にはスパイを取り締まる法律がないために、不正競争防止法や外為法で取り締まっている。スパイ防止法案は、昭和60年(1985年)に議員立法として提出されたものの、野党であった社会党などの反対により審議未了で廃案となった。現在、日本は各国からスパイ天国と評されている。
もともとスパイ防止法がある米国は、昨今の米中対立から、中国人スパイを警戒し、対策を強化している。他の西側諸国も同様である。こうした中で中国が技術も含めた情報を入手する矛先は、スパイ天国である日本に向かっていくであろう。
平成25年(2013年)に国家公務員を対象とした「特定秘密保護法」が国会で審議された際、野党や朝日新聞を中心とするメディアは「居酒屋での会話内容ですら機密漏洩に問われて厳しい罰則が科される」などと、あり得ない例で恐怖心を煽って反対キャンペーンを張った。しかし同法施行から10年経っても、そのような事案は類似事案を含め1件たりとも発生していない。
国際協力から取り残される
航空自衛隊の次期戦闘機は、英国、イタリアとの共同開発となった。将来、対地長射程巡航ミサイルであるトマホークの導入も検討されている。戦後、日本には工廠(軍直属の軍需工場)がなくなったので、武器の製造やメンテナンスは民間企業が実施しているが、秘密情報を管理する法律が満足に整っていない国と協力することに主要国は二の足を踏む可能性がある。
また日本は米英豪3カ国による原子力潜水艦建造の協力枠組みであるAUKUS(オーカス)に入れない。さらに米英豪とカナダ、ニュージーランド5カ国の秘密情報共有枠組み「ファイブ・アイズ」に日本が入るための一丁目一番地が、スパイ防止法の制定である。
日本の国益のためにスパイ防止法は必須だ。(了)