12月13日(金)、総合安全保障プロジェクトの一環である中国安全保障動向について、中川真紀研究員による定期報告会を開催。早朝の開催にもかかわらず、国会議員をはじめ企画委員など多くの参加を得た。
報告の概要は以下のとおり。
【概要】
12月10日、ノーベル平和賞授賞式で、核保有国の中国は欠席した。その中国は、日米同盟のもと日本が対中抑止のため米国の核兵器で中国を威嚇するなら、日本を核保有国と同列とみなすという。中国核戦力の動向に最大の注意が必要な中、今回は中国ロケット軍が9月に実施した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射についてオシント情報から分析する。加えて、最新の中国軍による大規模海上演習についても情報提供をする。
〇ICBM発射の概要
中国人民解放軍ロケット軍は9月25日、事前にNOTAM(国際的な航空情報)で提示した公海上の予定海域(仏領ポリネシア沖)に正確にICBMを落下させた。飛距離は11700kmで、航程が最短となる大圏航路を使えば中国内陸部から米本土にまで到達する距離である。
公開された画像からICBMはDF-31AGと見られる。これはDF-31シリーズの最新型で、固体燃料を利用した輸送起立発射機車載型であり、機動性・即応性を大きく向上させている。
推定される発射基地は、海南島の軍関連設備であり、観測施設の整備された文昌発射センターなども利用した可能性がある。発射を前に中国観測船(遠望3号、5号、6号)が太平洋上に展開しており、10月1日の国慶節を目途に国威発揚のため、計画的に準備してきたことが窺われる。
〇公海上へのミサイル発射の意義
前回の公海上へのICBM発射試験は1980年にDF-5が酒泉衛星発射センターから太平洋上に発射(飛距離約9100km)された。今回は44年ぶりとなる公海上への発射試験で、前回の液体燃料から固体燃料推進方式になってから、初めて成功したことになる。また射程が2600km延伸したことで、全米が射程圏内となった意味は小さくない。
公海上への発射は、従来から使用してきた内陸部のミサイル発射施設だけでは最大射程の検証は不可能であり、他国にテレメトリー信号(遠隔測定用のミサイル情報)を補足される、或いは他国に落下物を回収されるリスクを冒してでも、公海上へ発射する軍事的必要性があった。
つまり、ミサイルがミニマムエナジー軌道(最大効率での飛翔)をとり最大射程を描く実戦に即した飛翔・再突入など、ミサイルの信頼性を技術的に検証する、或いは実戦能力を米国へ誇示し台湾問題への介入を牽制する、などの意味もあるだろう。
〇ミサイル発射サイロ群の状況と核戦力の見通し
中国内陸部にはICBM発射用のサイロ群が点在している。これらに、DF-31AGを装填し運用を開始すれば、米本土に直接核打撃を与えることが可能だ。ただし、衛星画像を分析するとサイロ群はいまだ建設途上であり、実運用の段階には達していない模様である。
まず核弾頭について、2030年までに1000発近くを保有できるプルトニウム量は確保している。
次にICBM発射に必要なサイロだが、現有の発射機及びサイロは140基で、玉門・哈蜜・杭錦の3個サイロ群に全装填すると300~310基が増加し、サイロ運用開始後は約450基になると見積もられる。対する米国のICBMサイロは400基であり、2030年には米中のICBM戦力が互角になる可能性がある。
〇米国の反応と日本への影響
中国のICBM発射を受け、9月25日、米国防総省副報道官が記者会見を行った。発射に際して米国は事前通告を受領し、それは誤解・誤算のリスクを軽減するもので歓迎するという内容であった。つまり、米国は発射自体を問題にしなかったのであり、国際社会と地域に深刻な懸念が生じたという日台と比較し、その反応にギャップが生じている。
背景には、2022年8月にペロシ下院議長が訪台したことで中断した米中軍事交流が本年8月頃から関係改善へ動き出し、さらに中国が発射へのコンセンサス獲得に努力してきたこともあるだろう。
以上の状況から今後中国は、実用性が検証されたICBMを増産・配備し、即応性を高め、米からの核攻撃に対しLOW(警報即発射)の態勢を確立していくだろう。
他方、米国は中国をロシア同様、核大国として取り扱い、軍備管理体制に取り込んでいく姿勢のようだが、今後中国が日台の頭越しに米国とだけ交渉するようになれば、力による一方的な現状変更に歯止めをかけることができなくなることが懸念され、注意が必要である。
〇最新の中国軍の大規模演習は台湾周辺からさらに拡大
さて、中国政府の公式発表はないが、台湾国防部の発表によると、12月9日から11日にかけ中国が飛行制限空域を設定し、また12月6日以降、台湾周辺及び西太平洋の海域で、海軍艦艇や海警船を含め艦船約90隻(報道ベース)による大規模演習を実施した模様である。今年2回実施した聯合利剣演習と異なる点は、東部戦区という枠に留まらず、今回は北部戦区、南部戦区からの参加も確認されたことから、中央軍事委員会が統裁した可能性がある。
訓練海域も台湾を包囲するだけでなく、九州、沖縄からフィリピンに至る第1列島線及び小笠原諸島を含む第2列島線までの広範な海域であった。
また、東シナ海の尖閣諸島に派遣される海警部隊とも連携して動いていることも確認された。今回、尖閣周辺海域で既に活動している海警船に加え、76mm砲を搭載した海警船4隻が増強するような形で航行した。そしてそのまま引き続き尖閣周辺での「法執行パトロール」を実施したが、4隻共76mm砲搭載の海警船が活動するのは初確認である。
今後も引き続き、中国人民解放軍の動きを衛星画像などのオシント情報から分析し、その能力を把握し、逐次アップデートする予定である。(文責 国基研)