公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2025.06.09 (月) 印刷する

歴史問題で対日包囲網形成の恐れ 荒木信子(朝鮮半島研究者)

6月3日、韓国左派「共に民主党」の李在明氏が第21代大統領に当選し、4日就任した。同大統領の対日姿勢が危惧されている。

「慰安婦」蒸し返しか

連合ニュースなどの報道によると、韓国の慰安婦支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)は4日、毎週行っている集会で、新政権に日韓慰安婦合意廃棄、第三者弁済中止を求めると主張した。

このような動きが出ていることは、李在明新大統領が慰安婦問題を蒸し返す可能性があることを示している。

日韓の間の歴史問題は終わらないだろう。しかも終戦から80年が経過したのに、日本を悪玉とする敗戦国史観を好むのは韓国だけではない。

ロシアは、今年9月上旬に対日戦勝80周年記念式典を軍事パレードも含めてロシア極東で開催すると発表し、「北東アジアの友好国から高い地位の指導者が参加することを期待している」と外務省報道官が述べたという(3月7日)。ロシアも対日歴史カードを手放していないのである。中国も同様であろう。

反日宣伝の交差路

先の大戦終戦直後、南朝鮮(独立後は韓国)の新聞22紙に掲載された対日関係記事を調べたことがあるが、各紙は米国、中華民国、共産主義者(ソ連、中国共産党)の影響を相当に受けていた。主なものを挙げれば、米国とソ連は解放者であり、中華民国とは反共と抗日の絆で結ばれていた、というものである。

歴史認識問題においても韓国(建国までは南朝鮮)は周辺国の交差路であった。各国、各陣営が工作を仕掛け、草刈り場となるのである。それと同時に戦前・戦中の日本がいかに悪意のある敵に囲まれていたかを思い知る。

特に米国が占領期の日本に行ったプロパガンダ、たとえばフィリピン戦での日本軍の「卑劣さ」など、そっくりの情報が体験談などと称して先述の主だった新聞に掲載されている。米国は南朝鮮に対して同様のプロパガンダを行った可能性が否定できず、また南朝鮮側がそれを利用した可能性もある。いずれにしても米国の対日観は影響が大きかった。

そう考えると、米国が日韓の歴史認識問題において日本側を全面的に理解してくれるとは考えにくい。

歴史攻撃をかわせ

日本を巡る周辺国の対日歴史観は、80年経っても第2次大戦時と基本的に変わっていないのではないだろうか。冷戦時代はイデオロギー対立が表立っていたから歴史認識はあまり問題にならなかった。シンプルな対立軸が消えて、攻撃の手段として歴史問題が前面に出るようになった。

現在、国際関係に大きな変動が起きている最中であり、再び周辺国から日本が歴史問題で包囲されないか憂慮される。韓国の蒸し返しがそれを後押ししないだろうか。韓国の歴史カードを無効化する努力が必要である。

混乱の時代において、朝鮮半島は周囲に翻弄され、日本はそのあおりを受けてきたのである。(了)