公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2025.06.23 (月) 印刷する

米のイラン攻撃を日本は支持せよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

米トランプ政権は、イランの核開発関連施設をB2爆撃機搭載の地中貫通爆弾(バンカーバスター)などによって攻撃した。石破茂首相は、メディアから米の攻撃を支持するかを問われ「政府内で議論する」と回答したが、かつてジョージ・W・ブッシュ大統領が北朝鮮、イラクと並べて「悪の枢軸」と呼んだイランの核開発を止めた意義を強調して支持を表明すべきであった。

北朝鮮核開発を思い起こせ

1994年に、当時のクリントン米大統領は、核開発をやめない北朝鮮に先制攻撃をかけようとしたが、カーター元大統領の調停により攻撃を取りやめた。カーター氏はその功績などでノーベル平和賞を受賞したが、北朝鮮はその後米国を騙し続け、既に押しも押されもせぬ核保有国となってしまった。あの時、米国が北朝鮮の核施設を破壊しておけば、ただでさえ悪化している今日の日本の安全保障環境は、幾分ましな状態となっていたはずである。

イランは、ウクライナ戦争でロシアにドローンを始めとする兵器を輸出している国である。北朝鮮からは弾道ミサイルを購入しており、2017年にイランが発射実験をした中距離弾道ミサイルは、北朝鮮のムスダンであると指摘されている。

日本の国際法学者の多くは、トランプ大統領のイラン攻撃を、先制攻撃を禁じた国際法違反と非難するが、日本の国益という視点が欠落している。むしろ日本は、悪の枢軸の一員であるイランの核関連施設に攻撃を加えたイスラエルと米国に学ぶべきで、北朝鮮の核開発を許容したことを恥じるべきだ。

また、事実上の核保有国であるイスラエルがイランの核開発を阻止するのはダブルスタンダードだとする非難も多い。しかし核拡散防止条約(NPT)そのものが、既存の核保有国のみに核保有を認め、他国には認めないダブルスタンダードだ。
 

中国に隙を見せるな

1990年代後半を在米日本大使館の武官として過ごした筆者は当時、イラクが自国周辺に米軍が集中すると妥協し、米軍が引くと大量破壊兵器の査察を拒否することを繰り返すのを見て、早くイラクのサダム・フセイン政権を打倒してもらいたいと思っていた。イラク戦争後、イラクは不安化したが、少なくとも周辺諸国への脅威になっていない。

今回の米軍によるイラン核関連施設攻撃によって、イランは石油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の封鎖や、中東の米軍基地への攻撃に踏み切るのではないかとの予測がなされている。しかし、ホルムズ海峡の封鎖で最も打撃を受けるのはイランの友邦中国であり、中東の米軍基地攻撃はホスト国の主権侵害になるので、言うほど簡単ではない。日本として懸念すべきは、米軍が中東に戦力を集めて東アジアがおろそかになり、その隙を突いて中国が台湾に侵攻する危険であろう。(了)