公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2025.08.25 (月) 印刷する

民意示すのは世論調査より選挙結果だ 有元隆志(産経新聞特別記者)

最近の報道各社の世論調査で、石破茂内閣の支持率が上昇している。「7月の参院選から民意が急速に変化したため、『石破おろし』をすることは世論に反するのではないかと自問自答している」と、複数の自民党議員から聞いた。当の石破首相は「辞めなくていい」との声が多数を占めていると、気をよくして続投に意欲を示している。自民党はどうしてしまったのか。有権者の意思を形として表すのはあくまで選挙であって、世論調査ではない。「世論」に気兼ねして、声を上げないことこそ自民党の危機的状況を示すものだ。

重い選挙3連敗の事実

世論調査は傾向を表すが、最終的には選挙によって民意が示される。参院選後に石破内閣の支持率が上昇したからといって、7月の参院選で自民・公明両党が目標としていた過半数の維持に必要な50議席に届かず、選挙前の66議席から大幅に減らし47議席になり、衆院に続き参院でも少数与党となった事実は変わらない。参院選後に世論が急速に変わったというのは詭弁だ。

そもそも「石破おろし」というのがおかしな言い方であり、本来は選挙結果を受けて、石破首相や森山裕幹事長が直ちに責任を取るべきだった。自民党は参院選の敗北を受けて、森山幹事長をトップとする「総括委員会」を立ち上げて、落選した候補者や有識者への聴き取りを行っているが、敗北の原因をつくった森山氏が責任者となってどうして客観的な総括ができるのか。

党内からは自民党全体がざんげすべきだとの意見が出ている。党全体として反省しなければならない面はもちろん多いが、最終的な責任者は総裁である石破首相であり、党執行部だ。

自民党と公明党で50議席という低い勝敗ラインを設定したのは石破首相その人である。昨年の衆院選、6月の都議選、そして参院選と3回連続して敗北した結果、自民党を中心とした政権が衆参両院で過半数を割り込むのは1955年の結党以降初めてという事態になった。にもかかわらず、居座ろうとしていること自体が異常な状況であり、誰も好き好んで「石破おろし」をしたいわけではない。

自発的退陣がベスト

自民党の小林鷹之元経済安全保障担当相が24日放送のBSテレ東番組で「国のリーダーが意思に反して(党の)中から降ろされると、国際社会にどう映るのか。国益を毀損するので、トップ自ら判断してほしい」と述べ、自発的な退陣を求めたが、多くの自民党議員が思っていることだろう。

自民党は「裏金問題」で負けたのであって石破首相に責任はないというのも本末転倒である。「裏金」ではなく政治資金収支報告書への「不記載」と主張したのは石破首相だった。昨年秋の衆院選で、不記載問題で党から重い処分を受けた候補を非公認にしたものの、その候補者が代表を務める政党支部に選挙の公示後に2000万円を支給することを決めたのは石破総裁だった。

石破首相自身にも、支援者の男性から政治資金パーティー券の代金などとして計3000万円以上を受け取りながら政治資金収支報告書に記載していなかった疑いがあると週刊文春が報じた。石破首相は否定したが、男性は実名で記者会見をし、国会での証人喚問に出る覚悟はあると主張している。これが事実なら、これこそ「裏金」であろう。

今年3月には石破首相が自民の衆院1期生に1人10万円分の商品券を配っていた事実まで発覚した。

総裁選前倒しを

「負の遺産を片付けるどころか、政治不信を招いた当事者として批判の矢面に立たされた」(東京新聞)のは石破首相であり、政治改革を主導したとはとてもいえない。選挙で問われたのは石破首相の指導力の欠如だった。

東京新聞の政治部長は参院選翌日の紙面で、「自民党にはこう言いたい。国民を侮ってはならない、と」と結んでいる。東京新聞の論調には全く同意しないが、この点だけはその通りだろう。これ以上混乱を長引かせないためにも、自民党は9月中に総裁選を前倒しして実施すべきだ。(了)