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2026.09.04 (金) 印刷する

特定失踪者の問題を通して気付いた「戦後」の本質 荒木和博・特定失踪者問題調査会代表

9月4日(金)、これまで特定失踪者問題に約30年間尽力してこられた荒木和博・国基研副評議員長が、定例の企画委員会において、特定失踪者の問題を通して気付いた戦後の本質について説明し、その後櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見を交換した。

【概要】
・浮かび上がる「未認定拉致被害者」の存在
平成14(2002)年9月17日、当時の小泉純一郎首相が訪朝し、日朝首脳会談が行われた。その結果、北朝鮮が初めて日本人の拉致を認め、同年10月に5人の被害者が帰国を果たした。この5人の中に、当時政府が拉致被害者として公式に認定していなかった曽我ひとみさんが含まれていたことから、「未認定拉致被害者」の存在が大きな社会問題として浮上し、世間の関心が一気に高まる中、翌年1月10日、民間の「特定失踪者問題調査会」が設立された。

・想像を超える拉致事件の規模と法的制約
同調査会の地道な活動を通じて、拉致問題の規模が想像をはるかにこえている実態が明らかになってきた。現在、調査会が把握している「特定失踪者(拉致の可能性を排除できない失踪者)」のリストは約470人に上り、警察が公式に捜査・調査対象としている事案(北朝鮮による拉致被害事案や拉致の可能性を排除できない事案)の対象者は約870人に達している。

拉致という国家主権の侵害と国民の生命・安全への脅威が存在する安全保障上の問題にもかかわらず、被害者を奪還するための手段としては「憲法」や「自衛隊法」上の法的な制約を理由に、自衛隊の派遣をはじめとする実力行使という選択肢は一貫して排除されてきた。

・情報開示の遅れと「隠蔽」を巡る疑念
さらに、事件に関する情報が長年にわたり表に出なかったことや、政府・警察の対応に対する疑念も指摘されている。

たとえば、昭和52(1977)年に拉致された横田めぐみさんの事案では、発生当初から拉致が疑われる情報があったものの、広く公に報道されたのは約20年が経過した平成9(1997)年になってからだった。実際にはその2~3年前の段階で、日本政府には韓国の治安機関などを経由して情報が伝わっていたとされ、情報開示の遅れは否めない。

また、平成16(2004)年5月の第二次小泉訪朝に向けた政治的・外交的な動きの中で、同年3月に発生した「山本美保さんDNA偽装事件」が起きた。昭和59(1984)年に失踪し、拉致の可能性が指摘されていた山本美保さんについて、当時他県で発見された遺体の骨髄をDNA鑑定し、山梨県警が「本人である」と家族に通知した。しかし、家族や支援団体からは鑑定のプロセスや根拠に強い不信感が示され、現在に至るまで「事実上の隠蔽や偽装ではないか」との批判が根強く残っている。

このように全容が明かされないまま年月が経過した事案が複数存在することから、公に認知されていない「第二、第三の横田めぐみさん、山本美保さん」に類する被害者が今なお多数存在する可能性は極めて高いと言える。

・拉致の背景に「戦後体制」の歪み
上記のような事案の背景に、「戦後体制」の歪みがあると考える。わが国は敗戦を経て、国防の根幹を米国に委ねる「戦後体制」を受け入れた。それを自らの意思で変革してこなかったツケが、まさに拉致という国家主権の侵害になって現れていると言っても過言ではない。

これまで積み重なってきた情報の不開示や、事実に反する説明を今さら覆すことは容易ではない。しかし、国民一人ひとりが創り上げる世論が大きく動くことによって、膠着した事態を打開する可能性がある。そのためには、政治やマスコミが真剣に行動を起こすことが必要である。

・拉致問題は「解決」でなく「進展」
幸いにして帰国を果たした5人でさえ、北朝鮮で囚われていた24年間という壮絶な時間を取り戻すことはできない。また、無念にも北朝鮮の地で亡くなった方や、拉致の過程で殺害された方も当然存在するはずだ。被害者本人やその家族にとって、失われた命や時間は二度と戻らず、本当の意味での「解決」という言葉は存在しないのである。

私たちにできることは、一人でも、一日でも早く、被害者を奪還するという「進展」をもたらすことだけだが、それでも最大限の努力を怠ることは許されない。

【略歴】
1956(昭和31)年生まれ、東京都出身。慶応大学法学部政治学科卒業後、民社党本部勤務、「北朝鮮に拉致された日本人を救出する全国協議会」(救う会)事務局長などを経て、現在は特定失踪者問題調査会代表、拓殖大学海外事情研究所教授、予備役ブルーリボンの会代表、国基研副評議員長などを務める。
(文責 国基研)