公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.04.22 (火) 印刷する

曖昧戦略は同盟国をも混乱させる 島田洋一(福井県立大学教授)

 昨年(2013年)末の安倍首相の靖国神社参拝に対し、オバマ政権が出した「失望」声明は外交的に拙劣だった。
「ノーコメント」なら、次回、次々回と日本の首相が参拝を重ねても、やはり「ノーコメント」で通せる。ゼロは何回掛けてもゼロ、表の関係にきしみを生じさせることはない。
ところが公式に「失望」と声明してしまうと、次回は「深く失望」、次々回は「極めて遺憾」など表現をエスカレートさせざるを得ない。少なくとも、そうした圧力に自らを晒す結果となる。
 どうしても同盟国政府のみならず一般にも失望や不快の念を伝えたいなら、匿名の高官発言としてメディアを通して、といったいつでも否定ないし軌道修正が可能なより微妙な方法がある。外交的に拙劣、と評したゆえんである。
ただし、日本側の曖昧な態度が、米側に思わずバランスを崩させた面もある。中国共産党政権が「靖国」を日米分断のカードにしていることはつとに明らかだ。
 内外の政治情勢を見ながら、今年はいつ参拝しようか、やめておこうかといった発想では、いたずらに神経をすり減らし、同盟国を当惑させ、敵対勢力や浅薄な批判者に乗じられるだけである。信念なき「曖昧戦略」は、「戦略なき曖昧」に陥るほかない。
 批判をはね返して参拝を続けた小泉純一郎元首相の場合も、さまざまな外交的配慮から、訪れる日が毎年揺れ動いた。それは自信のなさと映り、つけ込もうとする誘因を相手に与える。
 毎年、例えば春秋の例大祭に合わせて淡々と参拝するといった型を確立することが必要だ。
 安倍首相の昨年末の参拝は快事だったが、そうした型を得るには至っていない。今年はどうするのか。小泉方式に陥ることは、安倍氏自身望んでいないだろう。
 昨年同様、毎年御用納めに合わせて鳥居をくぐるというのも、一つの型になりうる。いずれにせよ、早期に決断し、信頼関係を維持すべき方面には明確に伝えておく必要がある。