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2014.05.08 (木) 印刷する

拉致問題と国際情報戦 荒木和博(拓殖大学教授、特定失踪者問題調査会代表)

 何しろ相手は北朝鮮。詐欺師と暴力団を一緒にしたような山賊国家である。最初から正直さを求めることなどできない。平成14年(2002)の小泉訪朝で金正日が拉致を認めるまでは「拉致は日本の反動のでっち上げ」と言い続けてきたのだ。認めた後で「死んだ」とか「わが国には入っていない」というのも検証以前に嘘だと思うべきだろう。
 昭和38年(1963)能登半島で叔父の寺越昭二さん、外雄さんと漁に出て北朝鮮に拉致された寺越武志さんをご存じの方も多いだろう。拉致被害者のうちで唯一家族が会いに行ける人だが、平成13年(2001)12月、彼の「著書」が北朝鮮で出版されている。そこには彼が拉致ではなく海難事故に遭って北朝鮮の船に助けられその後北朝鮮で暮らすことになったという話が書かれている。そしてその本の中では他の日本人拉致まででっちあげであると書かれているのだ。金正日が拉致を認めるのは翌年である。
 「著書」と書いたが、例えば武志さんの中学の担任の先生の名前がこの本には「ニシ・アズマ先生」と書かれている。しかし実際には「西東(さいとう)」先生である。こんな間違いを本人がするはずはない。この本が武志さんから聞いた話をもとに北朝鮮当局が作り上げたものであることは明らかだ。
 この本の書名は『人情の海』という。仮にも拉致被害者の「著書」にこんなタイトルを付けるのが北朝鮮の面目躍如(?)と言えよう。
 北朝鮮は拉致問題に関してこれまで様々な情報戦をしかけてきた。『人情の海』もその一環だ。しかしそれに対して日本政府は防戦一方である。日本政府がやってきた情報戦と言えば、国民が拉致問題の真実に気付かないようにすることくらいであり、これでは北朝鮮に勝てるはずがない。新しい機関を作ったり法律を変えたりしなくても、できることは山ほどある。情報戦も戦争のうちなのだから、何より必要なのは必勝の信念だ。安倍総理はそれを理解してくれているだろうか。