拉致問題における「行動対行動」の原則とは何か。北朝鮮側がなすべき「行動」は、拉致被害者を日本に還すこと、それ以外にない。今さらの「調査」なるものがどう「進捗」しようが、いわんや「開始」されようが「行動」の範疇には入らない。
その点で、「調査」の「開始」と同時に制裁を緩和するという今回の日朝合意(2014年5月29日、日本政府発表)は、明らかに行動対行動の原則からはずれた「ジェスチャー対行動」と言うべきものである。
ただし、とにかく事態を動かせば、よい展開もさまざまに起こりうる。安倍首相・古屋拉致担当相ラインが、一方的に北にしてやられるはずもない。従って、事態を具体的に動かしたという一点において、今回の合意には意味がある。
もっとも気になるのは菅官房長官の、北の調査期間は「1年を超えることはないだろう」「1年を目途に」といった発言である。
「1年以内の全員帰国を目途に」なら、まだ分かる。菅氏は、今年末に控えるガイドライン再改定に集団的自衛権の行使容認を反映させるため、早期の閣議決定が望ましいとの認識を繰り返し示している。
なぜ、拉致に関する北の「調査結果」の方は、一段の余裕を持った1年先でよいのか。これは誤った情報発信となるのではないか。
時間を与えれば与えるほど、北は念入りに偽装工作をしてくる。逆に急がせれば、かつてのように、にわか作りのニセ書類を出して墓穴を掘るような展開にもなり得よう。
合意文書には、「調査は迅速に進め」とあるのみで、5月30日に拉致被害者家族会に帰国報告した、交渉担当者の伊原外務省アジア大洋州局長は、期限については何も決まっていないと答えている。だとすれば、被害者の早期帰国を実現する上でも、相手に念入りな偽装工作の余裕を与えないためにも、「1年を目途に」云々の官房長官発言は無用であろう。
そして、何より重要なのは「調査結果」の中身だ。
「死んでいました。死亡診断書を渡します。遺骨を渡します」は、一切「成果」として評価しない、すなわちこちらの制裁緩和や食糧支援にはつながらない旨、明確にすべきであろう。
いま最も注意を傾けるべきは、北の独裁者が「被害者を亡きものにして、遺骨を日本に渡し、カネを取れ」と指令する事態をいかに牽制、阻止するかである。
日本からの制裁解除や支援につながる北の「行動」は、あくまで「生存者がいました。帰国させます」のみである旨、官民問わず、はっきり発信していかねばならない。日本からの動きで、北の「調査結果」の時期と内容をどう変えていくかが情報戦のポイントとなる。
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