「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」とは情報の重要性を説いた孫子の言葉である。人間が生存するための条件は、外界の危険をいち早く察知することにあるが、それは古来五感によるとされ、とりわけ80%以上の情報は視覚から得られているというから、生き残るためには「目を見開いて」危険を察知する必要がある。
34年間、戦闘機乗りだった私は、如何に近代科学装置が発達しても、最後は自分の目で確認する以外にはなく、他人の手助けも期待できないと知った。生き残る為には、自らの視界にとらえた情報を瞬時に脳に伝達し、すかさず行動に移さねばならない。
国家を人間に例えても同じだろう。
70億と言われる人類が、ひしめき合って生存競争を続けている地球上で、日本民族が生き残り、かつ豊かな生活を維持しようと欲するのであれば、他国よりもいち早く情報を掴んでただちに処置することが国家指導者に要求される。
古来軍隊は、国家生存のための重要な手段だから、指揮官・幕僚に情報の重要性を指導してきた。例えば統帥綱領には「一つの手段、一つの機関による情報は、その性質に支配されて一方に偏しやすい。違った手段、違った機関による情報を総合判断しなければならない」とある。
航空自衛隊は空において活動する組織だから「情報とは、任務達成のために必要とする敵及び諸外国並びに作戦地域及び空域等に関する情報資料を処理して得た知識」を言い、情報活動の主眼は「指揮官の状況判断に資するため必要とする情報を適時に入手する」ことであり、情報活動は「収集努力の指向、情報資料の収集、情報資料の処理及び情報の使用の4過程」に分けられ、①情報要求の確立。②先行性、適時性、継続性、③情報感覚と的確な推理、が「情報活動の要則」とされる。それで初めて的確な推理によって正確な処理及び見積もりを可能にし、先入主または独善的判断に陥ることを防げるからである。しかし、わが国では、指導者各人の自覚向上よりも、「情報機関」を作ることで良しとする傾向が強い。
今、情報戦争を仕掛けられて窮地に立っているのは、いつに日本国民自身の情報感覚の低さによるものと言うべきで、英語で「インテリジェンス」というのが私には痛烈な皮肉に聞こえる。
国基研ろんだん
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