公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.07.15 (火) 印刷する

河野洋平氏の「卑怯」な論法と国会招致 島田洋一(福井県立大学教授)

 「河野談話」の経緯について、河野洋平元官房長官自身に国会で説明を求めるという「次世代の会」山田宏衆院議員の提案を自民党が拒否したという。
 山田氏は、河野氏の参考人招致を求めた理由をツイッターに次のように記している(7月11日付け)。
 談話に関する記者発表の席で河野氏が「(慰安婦の)強制連行はあった」と断言したため誤解が一段と拡大した、「なぜ証拠もない『強制連行』をあっさり認めたのか。御当人しか説明できない」、河野氏は新聞紙上や講演では時に談話に触れるが、衆議院議長まで務め、最高位の勲章(桐花大綬章)を受けた人間として、国権の最高機関たる国会の場で堂々と説明すべきではないか―。実に理に適った議論である。
 ところが、塩崎恭久衆院予算委理事(自民)から連絡があり、「『河野氏の招致は自民党としては行うべきでない』という結論になった」「理由は、『議長まで務めた元議員を招致する事例は、本人が犯罪への関与が取りざたされた以外はない』から」とのことだったという。すなわち「前例がない」から駄目というわけだ。
 河野氏の行為は、前例がないほどに日本の名誉を毀損し、その毀損は今も進行している。前例がない対応が必要になるのは当然である。しかも、内閣官房長官の地位にある者が、虚偽の言説で他者の人格を傷つけるなら、立派な権力犯罪に当たる。官房長官経験者である塩崎氏は、そんな自覚もなしに仕事をしていたのか。
 「自民党として」の決定という塩崎氏の発言を、多くの自民党議員がよしとするようなら、安倍政権の求心力低下にもつながっていこう。
 河野氏は、山口市での講演(6月21日)で、「『他国も昔は同様のことをやっていた』と開き直るのは卑怯なことです。速度違反で検挙された人が、周りもやっていると居直るようなもの」などと河野談話見直しの動きを批判している。
 この人の口から「卑怯」という言葉が出るとは驚きだが、問題は、韓国における米軍慰安婦村などと「同様」の旧日本軍の慰安所だけが、「残虐性と巨大さにおいて前例を見ない」(2007年7月30日、米下院決議)などと特別に「異様」な存在であったかのごとく国際宣伝されるに至った点である。
 河野氏の「速度違反」の比喩に付き合えば(国の名誉が掛かった問題を喩えるには不見識に軽い例と思うが)、同じスピードで走行しながら、韓国人やアメリカ人のドライバーは違反を問われず、日本人ドライバーだけが呼び止められた上、身に覚えのないひき逃げの罪で極刑を言い渡されたようなものである。
 「速度違反はともかくひき逃げなどしていない」と心ある日本人は主張しているのであり、「米・韓人も速度違反をしていた」などと、この場合意味のない、「卑怯」というより愚かな反論を一体誰がしたというのか。正当な河野談話見直しの動きを、「周りもやっていると居直る」などと形容する河野氏の姿勢こそ「卑怯」なすり換えであろう。
 なお、河野氏とともに、事務方の中心として「談話」作成に当たった内閣外政審議室長(1993年当時)で元外務官僚の谷野作太郎氏も国会に参考人招致し、話を聞かねばならない。