公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.07.31 (木) 印刷する

情報戦としての策源地攻撃力整備 島田洋一(福井県立大学教授)

 北朝鮮が新たな核実験を行った場合、拉致問題を中心とした日朝協議を打ち切るべきかどうかが様々な場で議論になる。
 まず、西岡力氏(拉致被害者を救う会会長)の次の発言が基本状況を的確に表しているだろう。「人質解放に向けた作戦実行中に、犯人が拳銃を一発ぶっ放したからといって、警察が相手との連絡を断ち切ることはない。日朝協議と核実験の関係についても同じだ」。
 もっとも、安保理決議違反、核兵器不拡散条約違反(北は一方的に脱退宣言したが、認めるべきではない)の核実験に対し、日本として何らかの対抗措置を取る必要はある。それは拉致に関する日朝協議中断ではなく、敵基地(策源地)攻撃力の整備という形を取るべきだろう。それが北に対する、そして背後で北のテロ政権を支え続けてきた北京に対する、日本の政治意志の最も確かな情報発信ともなる。
 策源地攻撃力については、例えば2013年2月22日の記者会見で、小野寺五典防衛大臣と記者の間に次のような質疑応答があった。

記者:先ほど北朝鮮の脅威ということについて触れられていましたけれども、自民党の国防部会などでは敵の策源地攻撃、敵基地攻撃について必要性を言う方がいらっしゃいます。大臣ご自身の認識と、今後どういうふうに対応していきたいか聞かせてください。
大臣:様々な事態の想定の中で、仮に我が国に対して急迫不正の事態が迫っていて、明確な攻撃の意図があるという場合には、策源地攻撃が憲法上許されるというふうに私どもは理解をしております。ただ、このことについては、相当様々な情報を集めた中で対応する話だと思っておりますので、具体的にそのような脅威が今後顕在化した中で、政府一丸として検討していく課題だと思っています。

 「具体的にそのような脅威が今後顕在化」には、当然、北朝鮮の核・中長距離ミサイル実験が含まれねばならない。
 なおすでに自民党の国防部会では、麻生政権時代の2009年5月の「防衛大綱改定に向けた素案概要」で「策源地攻撃が必要」と明記の上、海上発射型巡航ミサイルの導入を提言している。
 北が核実験を行った場合、安倍政権下の「政府一丸として」のみならず、与党自民党や保守系野党議員も連動し、速やかに策源地攻撃力整備を打ち出すべきだろう。
 中国共産党政権が、北朝鮮の核ミサイル開発を真剣に抑制し掛かるとすれば、それは日本が独自抑止力の整備に乗り出した時、とはかねてより内外において論じられてきたところである。
 ただ、独自抑止力といっても、いわゆる「核武装」は、予見しうる将来、日本の世論・政治状況を考えれば不可能に近い。一部の有志政治家が声を上げても(重要な情報発信ではあるが)、孤立した主張にとどまるだろう。
 北京もそうした日本の状況は見切っている。しかし、中国内の司令系統中枢にピンポイント攻撃可能な射程距離と正確性を持った通常弾頭装備のミサイルの配備は政治的に可能であり、ためらう理由はない。
 北の核や中長距離ミサイルの実験に、拉致協議打ち切りや“見て見ぬふり”といった消極的ないし退嬰的な対応を取るのではなく(それは情報戦における敗北にもつながる)、抑止力強化の機会とする積極対応が必要である。