公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2014.11.17 (月) 印刷する

日朝拉致協議に関して深まる疑念と懸念 島田洋一(福井県立大学教授)

 2014年11月13日、衆議院第一議員会館で行われた拉致議連総会に、救う会副会長の立場で出席した。

冒頭、先の平壌での日朝協議(10月28、29日)について滝沢成樹外務省アジア大洋州局参事官が報告した中に、「12名の認定拉致被害者については、過去に滞在した招待所などの調査を始めている、との説明が北側からあった」との一句があった。

これは従来の説明とは微妙に異なる。伊原純一外務省アジア大洋州局長(訪朝団長)が、帰国直後の10月31日に、家族会はじめ関係者に行った報告では、「調査の準備段階が終わるところ、との説明があった」とのことだった。

今回の滝沢参事官の話と付き合わせると、「調査の準備段階が終わるところ」とは「過去に滞在した招待所などの調査を始めている」状態を指すということになる。

日本側が求めるのは、拉致被害者の過去ではなく現状についての説明、というより説明などどうでもよいから直ちに全員を日本に帰すことのはずだ。

ところが、伊原団長が、「過去に滞在した招待所の調査」など不要、あるいは「そんな猿芝居はカメラの前だけでいい」などと鋭く反撃した形跡はない。

日朝協議の詳細を知るある政府高官によると、伊原氏は、北朝鮮地域で亡くなった日本人に係わる「墓参」の「国家事業化」を考えている旨、自ら北朝鮮側に伝えたという。

日朝協議を復活させた北の狙いの一つは、拉致問題を先送りしつつ、墓参、遺骨収集の経費名目で日本から資金を得ることにあるが、外務省には、そうした資金提供を呼び水に拉致「調査」の進展を図りたいという、例によって宥和的な発想があるようだ。

これは北朝鮮に確実に騙され、ただ取りされる道である。拉致問題を動かさなくても、カネが継続的に取れるとなれば、北は拉致「調査」を延々と「丁寧に」進めてくるだろう。さらに、「墓参」で揺さぶりが効いたとなれば、次は「遺骨」で揺さぶりを、が北の戦術となろう。

議連総会の席上、西村眞悟代議士(議連副会長)が、政府は拉致問題が最重要課題であることを北に伝えるとしているが、それを伝えるのはコンサートではなく、拉致被害者救出のための軍事演習であるはずだと発言した。コンサートとは、政府主催の12月8日「拉致問題啓発コンサート」(宇崎竜童、阿木耀子プロデュース)を指す。

コンサートにもそれなりの意味はあるだろう。しかし圧力を加える動きが同時に日本政府から出なければ、出演者の熱意にも拘わらず、コンサートの意義は半減する、どころか日本は救出に本気でないとのメッセージにもなりかねない。

外務省主導の日朝平壌協議は、安倍首相の意図とは逆に、日本は拉致問題を最重要課題とは「さほどしていない」とのメッセージになったのではないか。関係者から説明や情報を聞けば聞くほど、疑念と懸念は深まっていく。