公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2015.03.03 (火) 印刷する

米国務次官の歴史発言と韓国の反発 島田洋一(福井県立大学教授)

 鈴置高史氏(日本経済新聞編集委員)の新著『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』の第1章は「〈韓国にはうんざり〉の米国人」というタイトルになっている。ちょうど読んでいたところ、次のニュースが入ってきた。韓国・聯合ニュース日本語版2015年3月2日付から引いておく。

米国務次官の歴史問題発言 「厳重に取り扱う」=韓国

【ソウル聯合ニュース】韓国外交部の趙太庸(チョ・テヨン)第1次官は2日、国会の外交統一委員会に出席し、シャーマン米国務次官(政治担当)が歴史問題をめぐる韓国・中国と日本の対立は3カ国とも責任があるという趣旨の発言をしたことについて、「外交部では発言を軽くみていない。厳重にこの問題を取り扱う」と述べた。

ただ、「米側から(歴史認識問題について)過去に表明した立場と変化がないことを確認した」として、「具体的な米国の立場については(近く)意見を交わす計画」と説明した。

趙氏は「米国も歴史問題について正しい認識を持っているため、一方的に日本の肩を持つことはないと思う」と強調した。

シャーマン氏は先月27日、ワシントンで行われたセミナーで講演し、「(北東アジアで)民族感情は依然として利用されている。政治指導者が過去の敵を非難することで安っぽい拍手を浴びることは難しくない」と発言。「だが、このような挑発は進展ではなく(感覚が)まひするだけだ」と指摘した。この発言は、日本の歴史歪曲の動きを批判する韓国と中国に向けられたものと受け取られ、韓国内で波紋を呼んでいる。

同委員会所属の与野党議員らは政府に対し、積極的な対応を求めた。
2015年3月2日付 韓国・聯合ニュース日本語版

実際3月2日、米国務省の定例記者会見の場で、マリー・ハーフ副報道官とおそらく韓国の記者との間で次のやり取りがあった(原文も最後に引いておく)。

記者 多くの韓国人は(ウェンディ・シャーマン国務次官の)発言を自国への批判と捉えている。日本政府が戦時の責任を誤魔化し否定しようとしている時に、一体なぜアメリカは、日本の過去の悪事の犠牲者を非難できるのか、と。私の質問は……

報道官 質問の意味は理解したと思うが、どうぞ続けて(笑)。

記者 あの発言は韓国をターゲットにしたものか。政治指導者が安物の賞賛を買おうとしているという彼女の発言は韓国に言及したものか。また、あの発言は歴史問題に関するアメリカの立場の変更を意味するのか。

報道官 何らアメリカの立場の変更を意味するものではない。……

■U.S. State Department, Daily Press Briefing, March 2, 2015

……QUESTION: Under Secretary Sherman, she said last Friday while talking about the bad relations between Japan and its two neighbors, Korea and China, she said political leaders should not try to, quote-unquote, “ earn cheap applause by vilifying a former neighbor.” Many Koreans view those remarks as criticism of their country, and they are now wondering why – how the U.S. could blame victims of Japan’s past wrongdoing for the situation when Tokyo keeps trying to whitewash and deny --

MARIE HARF, DEPUTY SPOKESPERSON: Well --

QUESTION: -- its responsibility for the wartime – my question is: Was that --

MS. HARF: I think I understand your question, but go ahead. (Laughter.)

QUESTION: Was that remark targeted at Korea? Was she referring to Korea when she talked about a political leader trying to earn cheap applause?
And my – I’m also wondering if this remark represent any change in U.S.

position on these historical issues. Thank you.

MS. HARF: It does not represent any change in U.S. policy – her remarks in no way reflect a change in U.S. policy – and were not intended to be about any one person or one country.……

報道官のうんざり感が伝わってくる。韓国の記者には、是非今後は、もっと執拗に食い下がってもらいたい。

実は、シャーマン国務次官の演説文を読んだ時、「上から目線で、日中韓に説教する暇があったら、オバマ政権自身の外交をしっかり立て直すべき」と冷ややかな感想を持ったのだが、韓国側が反発を露わにするのを見て、意外に効果的な演説だったかと思い直した。

歴史問題で自身が続ける日本非難に他国も当然同調すべきと考えるコリアンたちにとっては、アメリカの「双方から距離を置く」姿勢は、直ちに不満ないし不安を呼び起こすのだろう。そして「親日」というレッテルを何より恐れる韓国政府は、いかにうんざりされようが、国内消費用に、抗議の意を表さざるを得ないのだろう。

虚偽の反日宣伝の蔓延に晒されている日本にとっては、アメリカの等距離姿勢は歓迎すべき「進歩」である。そして予見しうる将来、米国一般に期待できるのは、そこまでだろう。

米リベラル政治家による、上から目線の発言は鼻につくが、大状況を考えれば、韓国や中国が反発する発言は大いに結構と言えよう。

徹底して排除すべきは、事実に基づかない一方的非難をぶつけられても、ひたすら「謝罪と反省」で対応する外務省的な敗北主義である。