公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2015.07.09 (木) 印刷する

「多国間の歴史共同研究」の危うさ 島田洋一(福井県立大学教授)

 安倍首相が発表予定の「戦後70年談話」に向けて設置した私的諮問機関「21世紀構想懇談会」(座長・西室泰三日本郵政社長、副座長・北岡伸一国際大学学長)が、中韓両国に加え、欧米や他のアジア諸国などを含む多国間の歴史共同研究を提唱する方向で調整に入ったという(共同通信、7月7日)。
 中韓に相手を限定しない「多国間の歴史共同研究を提唱」は結構だが、また「北岡伸一座長」というのでは中共や韓国の歴史戦に利用され、禍根を残すことになる。
 この点、伊藤隆東大名誉教授の、月刊『明日への選択』(日本政策研究センター)2015年7月号掲載のインタビューが興味深い。いくつか重要部分を引いておく。
 《中国人にとって歴史とはどう言えば自分たちの利益になるかという道具。中国人にとって歴史は政治なのです。だから、日本が侵略したと彼らは声高に言うけれども、アヘン戦争でイギリスにこっぴどくやられたことについてはあまり言わない》
 《戦争とは、国家観で利害対立があり、決着がつかない場合に行うものです。……だから以前から、「日本はなぜ戦争をしたか」ではなく、「これらの国はなぜ戦争したか」を問うべきだと言ってきたんですね。……(だから)北岡伸一君が「安倍さんには『日本は侵略した』といって欲しい」と言ったことは、僕はけしからんと思っているのです》
 伊藤氏は北岡伸一氏の師匠筋に当たるが、北岡氏が「侵略」を安倍談話に入れようと熱意を燃やす理由について、《北岡君は以前、「日中歴史共同研究」の座長を務め、報告書に日本は侵略したということを書いたことがある。秀才ですからね、一貫性を求めたのではないでしょうか》と述べている。
 中国共産党への迎合における一貫性という意味だろう。ちなみに北岡氏が主導した日中共同研究日本側報告書のタイトルは「日本軍の侵略と中国の抗戦」と中国側のそれと見まがうものとなっている。伊藤氏はまた、北岡氏の、日本の歴史学会に対する迎合も示唆している。
 日本の歴史学会も、憲法学会と同じで、教条的な左翼の勢力が強く、国際政治をバランス感覚と明確な理念をもって見据えることのできる研究者は少ない。
 「多国間の歴史共同研究」を実施する場合、学会政治に顧慮せず、反日勢力の宣伝戦に堂々と立ち向かえる人を中心に据えることが、最低必要条件となる。伊藤隆教授の発言については、下記、拙ブログを参照。

■伊藤隆『明日への選択』インタビュー―歴史、侵略、中国、北岡伸一
 http://island3.exblog.jp/24654536/
■碩学伊藤隆氏の北岡伸一批判
 http://island3.exblog.jp/24376313