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2016.06.08 (水) 印刷する

国際法にもとづく海洋秩序つくりに台湾を組み入れよ 山田吉彦(東海大学教授)

 台湾の前総統馬英九氏は、任期終了間際に中国共産党に利する海洋政策を展開した。
 フィリピンは、中国の強引な南シナ海侵出に対し、オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所に裁定を求め、6月にもその裁定が下ると言われている。中国は、この仲裁裁判を完全に黙殺する方針である。この仲裁に異議を申すかのように、かつて馬氏が代表を務めた台湾の民間組織「中華民国国際法学会」が陳述書を提出したのだ。この陳述書では、スプラトリー諸島の中で、国連海洋法条約第121条による島と言える「太平島」を領有しているのは台湾であり、中国が人工島を建設したスビ礁やフェアリークロス礁などの管轄権は台湾にあるとしているようだ。太平島は、終戦までは日本の領土であり、1950年からフィリピン人が利用し、56年に台湾が占領した経緯があるため、フィリピンも領有権を主張している。また、中国、ベトナムも領有権を主張している。中国の主張では、台湾は中国の一部であるとしているため、この陳述書は、中国の代弁を台湾の団体がしているようなものである。また、この陳述書を仲裁裁判所が内容を検証するとなると、裁定が先送りされる要因となり、裁定への対処策を講じたい中国にとっては時間稼ぎとなり、願ってもないことである。
 この裁定は、国際法にもとづき南シナ海の海洋秩序を構築する契機として注目を集めている。台湾は、国連海洋法条約に加盟してはいないが、今後、アジアの海洋安全保障の枠組みつくりの中で、馬氏の思惑に対処する蔡英文政権の対応に注目したい。そして、日本は、ASEAN諸国とともに台湾をアジアの海洋秩序つくりのパートナーに加えるべきである。

*国連海洋法条約121条 島の制度
 1. 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。
 2. 3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。
 3. 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。