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2017.04.05 (水) 印刷する

駐韓大使帰任、「条件付き」で支持する 西岡力(麗澤大学客員教授・モラロジー研究所歴史研究室長)

 長嶺安政・駐韓大使と森本康敬・釜山総領事が4日夜、韓国に帰任した。ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦像が撤去されない中、昨年末には釜山の総領事館前に慰安婦像が設置された。このことに抗議して1月9日に両氏を一時帰国させて以来、約80日ぶりのことだ。私はこの帰任措置を条件付きで支持する。その理由を書く前に国内の反応を概観しよう。

 ●朝日は一時帰国そのものを批判
 慰安婦像撤去という結果が出ていない中での帰任には批判がある。批判は大きく分けて2つの方向からなされている。第1は大使館と領事館前の慰安婦像撤去という結果が出ていない中で、こちらが譲歩するかのような行動は誤解を招くというものだ。
 産経は「像撤去の見通しは立っておらず、チグハグな印象は否めない」と書いた。読売は「今回の決断が、慰安婦問題で禍根を残す恐れもある。政府関係者は『大使を帰任させることで、日本は日韓合意をそれほど重視していないという韓国への誤ったメッセージとなる可能性もある』と懸念する」と書いた。新藤義孝・前総務相も「慰安婦問題という前提が解決していない中での政府の帰任判断はじくじたる思いだ。党内では歓迎の声ばかりではない」と語った。
 一方、大使らの一時帰国そのものを批判し、強硬一辺倒の策はなんら結果を生まなかったとする見方もある。
 朝日は社説で、「大使らの『一時帰国』は短慮だったと言わざるをえない。像の移転問題の進展を求めてきたが、結果として事態に何の変化もないまま、矛を収めることになった」と書いた。二階俊博自民党幹事長は「結果をちゃんと想定してやるべきだった。そもそも(大使らを日本に)帰す必要があったかどうか」と述べている。

 ●再度、韓国人が考える契機に
 私は大使らを帰国させた措置を「日本が自己主張をすることで韓国人に自分たちのやっていること、信じていることがおかしいのではないかと考えさせる契機を与えることになる」という理由で支持してきた。本「ろんだん」欄でもそのことをめぐり何回か拙文を寄せた。
 その観点から今回の帰任措置を評価すると、「条件付き支持」だ。その条件とは帰任後、大使らが公館前の慰安婦像は「公館の安寧・威厳の維持」を定めたウィーン条約違反だという日本の立場をより明快に打ち出すことと、日韓合意で韓国の尹炳世外相は「関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」と約束したのにいまだに像を設置した団体と協議を行っていないことを一般に公開する形で批判することだ。
 大使の一時帰国措置の結果、韓国マスコミが日本の抗議の理由は慰安婦問題での開き直りではなく、ウィーン条約違反を責めているのだとやっと書き始めた。だから、そのことを繰り返し主張することが必要なのだ。また、岸田文雄外相こそが尹外相に約束を守って関連団体と早急に協議せよと求める最適人物だが、3日の会見でもそのことに触れなかった。岸田外相は大使らを帰任させる理由として、韓国の政権移行期の情報収集や挑発を続ける北朝鮮への対応での日韓連携強化を挙げた。それらは当然なすべきことだが、それに加えてウィーン条約違反キャンペーンと尹外相への約束履行要求を大使らに命じるならば、私は今回の帰任措置を支持できる。