米トランプ政権が、オバマ政権が進めてきた二酸化炭素(CO2)排出規制の撤廃、地球温暖化対策費(国連への拠出金、大学・NGOへの公的研究扶助、途上国への財政支援等々)の全面見直しを打ち出している。その背後には、「人間活動に起因するCO2の増加が温暖化を生む」という説への懐疑がある。これは米保守派において広く共有された発想で、テッド・クルーズ、マルコ・ルビオといった他の共和党有力候補が大統領になっていても、同様の政策が進められたであろう。決してトランプ氏の特異な個性によるものではない。
●再び「一人カモ」になる恐れ
翻って日本では、人為的温暖化説が、確立された科学的知見のように受け入れられ、「身を切る」CO2排出規制、「炭素税」の導入、途上国への大規模な財政支援等々が、「先進国の責任」を旗印に超党派で進められる傾向にある。これは危うい情景ではないか。1997年の京都議定書の時のように、また日本が「一人勝ち」ならぬ「一人カモ」状態に陥ることはないか。ここは米国の議論も参考に、温暖化の科学に冷静に向き合うべき時だろう。
そうした論点で一文を記そうとしたところ、日本経済新聞に「米政権交代で弾み? 『温暖化CO2主因説』の再検証 」と題する優れた記事が出た(4月3日付、科学技術部シニア・エディター 池辺豊氏執筆)。池辺氏によれば、「人為的なCO2の排出を気候変動の主因とする温暖化論はいまだ仮説の域を出ていない。CO2以外の気候変動のさまざまな要因を検証する研究が進められており、異論も出ている」という。
「さまざまな要因」には、太陽の影響、宇宙放射線の影響などが考えられる。ところが国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「温暖化ガス以外の気候変動要因を深く検証することはせず、むしろ軽んじてきたのが実情」(池辺氏)である。
●日本政治に問われる「科学の心」
池辺氏の次の一節は興味深い。
《こうして研究者が手探りなのに対して、首をかしげるような過激な脅威論もある。2月に聴講したあるシンポジウムで、国連環境計画金融イニシアチブの末吉竹二郎特別顧問は「パリ協定で新しい価値観が生まれた。CO2を出すのは悪いことだ」と断言し、CO2を多めに排出する火力発電への投資をやめるよう要求した。科学者が決して口にしないような物言いに、筆者は強い違和感を覚えた》。
《パリ協定の採択以降、科学的な知見とは無関係にCO2削減の圧力が強まっている。温暖化の途上国への経済的影響を先進国の「罪悪」とみなし、「クライメート・ジャスティス(気候正義)」を問題にする事例がその一例だ。》
池辺氏は人為的温暖化論について、「日本では何が受け入れられるきっかけだったか判然としないまま、いつの間にか反論を許されないほどの『学説』として扱われている」と嘆息する。
東日本大震災後の「1ミリシーベルト」脅威論、豊洲市場問題における「安全」と「安心」の混同などと同様、温暖化論も科学というよりポピュリズムの次元で進められてきたのではないか。
日本政治に果たして「科学の心」があるのかが問われている。