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2017.04.06 (木) 印刷する

マレーシアはテロ支援国に成り下がったか 西岡力(麗澤大学客員教授・モラロジー研究所歴史研究室長)

 3月30日、マレーシア政府が金正男暗殺事件の政治決着を行った。金正男の遺体と駐マレーシア大使館に逃げ込んでいた容疑者2名を北朝鮮に引き渡し、その代わり北朝鮮に抑留されていたマレーシア大使館員ら9人の身柄を受けとるという内容だった。
 マレーシアは自国の空港で化学兵器(VXガス)を使ったテロを行われ、その容疑者を捜査しようとしたところ、事件とまったく関係のない在北朝鮮マレーシア人を不当に抑留されるという2重の主権侵害を受けた。
 マレーシア政府は同日、「この深刻な犯罪に対する警察の捜査は継続する」と公表したが、肝心の北朝鮮人容疑者全員に逃走され、証拠である遺体も引き渡してしまったのだから、捜査の継続はほぼ不可能になったと言える。その上、北朝鮮は「両国はビザなし渡航の再導入を肯定的に討議し、関係発展へ努力する」ことも合意したと一方的に発表した。この発表が正しいなら、マレーシアは今回の事件に対する北朝鮮とその最高指導者、金正恩の責任を免除すると約束したことになる。
 北朝鮮は5日朝、再び日本海に向けて弾道ミサイルを発射するなど、国際社会に対する挑発行為を改める気配はない。

 ●国際社会への告発義務忘れるな
 もちろん、抑留された自国民の救出を最優先したマレーシア政府の対応を頭から否定することは出来ない。しかし、戦争でも使用が禁じられている化学兵器を空港という公開の場所で用いた北朝鮮の所業は絶対に許しがたいテロだ。その上、事件と関係のない外交官を一方的に抑留する行為も一種の拉致であり、これもまた許しがたいテロだ。
 唯一領導(指導)体制を強調し、首領である金正恩の決済なしには何事もなし得ない北朝鮮の個人独裁システムからして、化学兵器テロも外交官拉致テロも金正恩の指示によるものと断定できる。
 抑留されていた自国民を取り戻したマレーシア政府は、少なくともVXガスが使われたと断定した科学的根拠の公開と国連安全保障理事会をはじめとする国際社会に北朝鮮のテロを告発する義務がある。また、その責任者である金正恩を糾弾すべきだ。このまま曖昧な政治決着で事件を終了させたならば、あわれなのはテロ実行犯として使い捨てにされたベトナム人とインドネシア人の2人の女だ。
 マレーシア政府は同じ東南アジア諸国連合(ASEAN)メンバーであるベトナム、インドネシア、そして政府として自国民が北朝鮮に拉致されていることを公式に認めているタイとともに、北朝鮮のテロ行為を非難する声を上げる義務がある。それをしないならば、マレーシア政府はASEANメンバー国を裏切る事実上のテロ支援国に成り下がってしまうと警告したい。