公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.04.10 (月) 印刷する

口先だけのオバマ政権からの転換 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 トランプ米大統領がシリア軍基地への巡航ミサイル攻撃に踏み切った。米国のシリア政権軍に対する軍事行動は初めてである。アサド政権による反体制派支配地区で起きた化学兵器を使った攻撃への対抗措置としている。
 「小さな棍棒を手に声高に語る」は、トランプ氏が大統領に当選した直後の昨年11月7日発行の外交専門誌「フォーリン・ポリシー」に掲載された論文の一節である。論文は、現在国家通商会議委員長となったピーター・ナヴァロ氏と、米海軍増強計画を推進するランディー・フォーブス下院議員(共和党・ヴァージニア州)のスタッフを務めるアレキサンダー・グレイ氏の共著である。

 ●言った以上は行動あるのみ
 この言葉は「棍棒外交」で知られるセオドア・ルーズベルト大統領の「大きな棍棒を手に柔らかく語る」という有名なセリフを捩り「口先だけで軍事力を行使しない」オバマ政権を揶揄したものだ。即ちオバマ前大統領は「シリアが化学兵器を使用するというレッド・ラインを越えたら米国は軍事行動を起こす」と声高に語っておきながら、実際には棍棒(軍事力)を使用しなかった。しかしナヴァロ氏らは論文で、トランプ政権は前政権とは違うと言いたかったのだろう。
 先月米国を訪問した時、筆者は共和党政権で国務副長官を務めた人物と意見交換をしたが、彼は、「レッド・ラインなど言う必要はない。ただ行動を起こしさえすれば良いのだ(Just Do it)」と語っていた。トランプ政権は棍棒の大小は別として、その路線を継承するのであろう。
 筆者が在米大使館の防衛駐在官(駐在武官)であった1990年代後半は、イラクに対する巡航ミサイル攻撃が頻発していた。当時、足繁くペンタゴンに通っていた経験からすると米国は攻撃終了後、必ず戦闘被害評価(Battle Damage Assessments-BDA-)を行い、戦果が不十分な場合には第2、第3の攻撃を行うことを常としていた。

 ●中国へのメッセージも狙う
 しかし今回のシリア攻撃は、シリアに対する懲罰的意味合いに加え、トランプ政権の行動パターンを金正男暗殺に化学兵器を使用した北朝鮮や、その後ろ盾となっている中国へのメッセージとすることが目的であるように思われる。早々に第二・第三の攻撃には踏み切らない可能性が高い。
 ところで米国のイラク攻撃については、結果的に大量破壊兵器が見つからなかったことをもって非難する向きが多いが、当時の北朝鮮は米国のアフガニスタン・イラク攻撃に慄き、急遽日本に接近して拉致被害者の一部を返したという側面も見落としてはならない。当時、防衛庁情報本部長であった筆者はそう思っている。
 ただ、シリアは米国や周辺の米同盟国に対して攻撃する能力は持っていないが、北朝鮮は米国の第一撃から生き延びた弾道ミサイルを(場合によっては核弾頭を装着して)韓国や日本に発射する可能性はなきにしもあらずである。
 その時の備えは十分か?突然現れた悪霊との闘いの後、神武天皇が述べた「長寝しつるかも(長いこと太平の眠りを貪ってしまった)」という言葉に改めて思いを致したい。