公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2017.05.29 (月) 印刷する

改憲めぐる統幕長発言への批判を批判する 冨山泰(国際問題研究者)

 自衛隊トップの河野克俊統合幕僚長が安倍晋三首相の憲法改正提案に関連し、「自衛隊の根拠規定が憲法に明記されるなら(一自衛官として)非常にありがたいと思う」と発言したことについて、朝日新聞や共産党、民進党が、またぞろこれを問題視している。
 統幕長の発言について、朝日新聞は社説で「政治的な中立性を逸脱する」と批判し、「文民統制の観点からも見過ごせない」と書いた。共産党は、公務員の憲法尊重擁護義務に違反し、「軍事組織の政治介入」につながると主張し、統幕長の罷免まで要求した。民進党の蓮舫代表も「望ましい発言とは思わない」と突き放した。

 ●民主主義の常識見ぬ「制服への拒絶」
 これらの批判で共通するのは、自衛隊の制服組が政治的発言をすることへの拒絶反応である。しかし、民主主義の価値観を日本と共有する米国では、軍人が国家安全保障上の観点から公の場で発言することにもっと寛容である。米軍幹部は議員や政府高官に比べれば政治的発言に慎重といわれるものの、思い切った発言をすることもある。
 代表的な例は、ハリー・ハリス太平洋軍司令官が2015年3月にオーストラリアのキャンベラで演説し、中国の南シナ海での人工島建設を「砂の長城」と批判したことである。当時、ハリス氏は太平洋・インド洋地域に展開する米海軍を統括する太平洋艦隊司令官だったが、政治的波紋を広げかねない演説を問題にされることなく、2カ月後にこの地域の米軍全体を指揮する太平洋軍司令官に昇進した。
 トランプ政権になると、国防予算増額のしわ寄せで、外交を担当する国務省や開発援助を担う国際開発局(USAID)の予算が大幅に削られることになった。すると3月、ダンフォード統合参謀本部議長ら米軍首脳が議会の公聴会で相次いで懸念を表明した。イスラム過激組織「イスラム国」撲滅には軍事力だけではなく、外交力や開発援助も必要だ、と軍事力偏重姿勢に軍事力の担い手が異を唱えたのだった。

 ●憲法に違反しているのはどっちだ
 この懸念表明に対し、「政治的な中立性を逸脱する」とか「文民統制違反」とか「軍事組織の政治介入」といった批判は、米国内でもちろん出なかった。ちなみにダンフォード統参議長は河野統幕長のカウンターパートである。
 共産党が河野統幕長の憲法尊重擁護義務違反を口にしたので、学生時代に参考書として使った宮澤俊義著「日本国憲法」(通称コンメンタール)を改めてめくってみた。すると、憲法改正を唱えることはこの義務に違反しないとはっきり書いてあるではないか。
 この通説に逆らって、自衛隊の根拠規定の憲法への明記に賛成することが憲法99条の憲法尊重擁護義務に違反すると共産党のように主張するなら、皇室を否定する党綱領を持つ共産党員が国会議員になることも憲法尊重擁護義務違反になるのではないか。共産党の主張がブーメランのように自らに返ってくる。