公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.08.21 (月) 印刷する

NHKは中国の歴史戦に手を貸すな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 NHKが8月13日に放映したドキュメンタリー番組『NHKスペシャル731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~』について、中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」系のタブロイド紙「環球時報」は、8月16日から3日連続で取り上げるという異例の報道ぶりだった。特に16日の報道では、NHKと書かれた背広を着た人物が曇ったガラス戸を綺麗に拭っているイラスト画まで使っている。
 731部隊は細菌戦研究を行なっていたものの、人体実験を行った証拠は後述するハバロフスク裁判での証言だけで、公的記録を含めた物的証拠は出ておらず、実際に人体実験を行ったか否かについては未だに議論がある。NHKの番組は「当時の国際条約で化学・生物兵器の使用が禁止されていた」としているが、その1925年のジュネーブ議定書に日本は批准していなかったことについて触れず、さらに次の2点についても報じていない。中国共産党の誇張プロパガンダに手を貸している面が否めない。

 ●現地ハルピンでは問題視されず
 1つは、中国東北部のハルピンには731部隊に関する記念館があるものの、現地調査した人物によれば、現地の人達は731部隊に関して問題視していないという点だ。理由は被害を被ったのは遠隔地から連れて来られた犯罪人で、現地の人達に被害が全く及んでいないからである。
 逆にこれを問題視する中国の習近平国家主席は、記念館を対日歴史戦のカードとして使うべく、現在の規模を約10倍に拡張するように、近郊の学校などを接収するように現地に命じた。
 歴史家の秦郁彦氏によれば、南京で殺害された中国人はせいぜい1万数千人であるにもかかわらず、30万人以上の組織的な殺害があったとする中国のプロパガンダが全世界に蔓延してしまった。中国共産党政権は731部隊に関しても誇張されたプロパガンダを今、広めようとしている。そうした中国当局の思惑にNHKは手を貸しているといわざるを得ない。

 ●正当性疑われるハバロフスク裁判
 2つ目は、731部隊を裁いたソ連のハバロフスク裁判については、正当性が疑わしいことだ。ロシア人の極東研究者ボンダレンコ氏は裁判そのものを国際法違反だと批判している。NHKが報じたのは、当時のソ連共産党政治局員による共産主義洗脳教育が行われた結果の口述記録であり、「行っていないことでも、行ったと言わない限り日本に帰れない」と脅迫されながらの供述に、どこまで信憑性があるかだ。
 米国はクリントン政権時代の1999年、ドイツと日本の戦争犯罪を追求する委員会を設置して調査したが、慰安婦の強制連行同様、731部隊の人体実験記録は見つからなかった。このため米国務省などは、ハバロフスク裁判に関して全く正当性を与えていない。
 以上の前提を踏まえて、今回のNHK番組を見れば、それなりの判断がつく筈であるが、その前提をNHKは報じていない。