こうした状況で、企業の利益剰余金の蓄積である内部留保が、2016年末に過去最高の375兆円に達した。10年前の水準からみれば、135兆円もの増加だが、企業は人手不足にもかかわらず、利益を人件費に回すことはなく、2016年末の労働分配率は43%台と過去最低水準である。
内部留保は、安倍晋三政権発足後に急増し、日銀の金融緩和と企業減税などで企業は業績が改善したが、新興国経済減速に伴う世界経済の下ぶれ懸念などのリスク要因に対応するため、利益をため込んでいる。
安倍政権は企業の利益を設備投資の拡大や賃上げにつなげ、個人消費を上向かせる「経済の好循環」を目指してきた。しかし、4~6月期の統計では、設備投資は前年同期比3.1%増えたものの、伸び率は1~3月期(4.2%)より鈍化した。従業員給与はほぼ横ばいの約28兆円であったが、特定の運用使途のない現金・預金は増加している(図―1)。
●内部留保を積極的活用せよ
図―2は、2005年に比べて2016年の、つまりリーマン・ショックを挟んだ約10年間に、上場企業の現金プラス短期証券(内部留保)が国民所得比で何%増減したかを表している。つまり日本の上場企業の内部留保は10年前、国民所得の約20%であったが、それが今は120%に達している。10年間で日本のGDPに匹敵する現金を内部留保として積み上げたことになる(図―2)。
図―1
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図―2 (青-2005年 赤-2016年)
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出典:財務省「法人企業統計」(2017年3月1日) | 出典:「内部留保を積み上げる日本企業 個人投資家は配当を重視した運用を」、ウィズダムツリージャパン、ZUU online (2017年3月29日) |
日本企業の自己資本利益率(ROE)は主要国に比べて低く、これが企業評価の高まらない原因の一つとされてきた。ROEが低い要因は事業の収益力の低さによるところが大きいため、これを引き上げていくことが必須である。企業は内部留保を再投資して成長することが求められる。
職場、職業訓練、労働移動、情報収集などの「雇用の拡大」あるいは賃金や待遇の改善といった「雇用の質の向上」に資する人的投資や設備投資、技術開発に資する成長投資に、この巨額な内部留保をもっと積極的に活用し、収益率の改善を図る必要がある。
企業がROE等で示される収益力を向上し、付加価値を高めることは、日本経済の好循環、持続的成長につながる。
●絶えざる技術革新が必要だ
世界経済フォーラム(WEF)の国際競争力レポートによると、日本の技術革新⼒指標(GII、2016-2017年版)は8位に後退した。これまでは4位から5位の間で推移していた。研究開発の成果を社会的価値につなげる力や、オープン・イノベーションに対する日本の弱さが可能性として指摘されている。
WEFは、貿易の障壁がむしろ大きくなっており、各国の将来的な成長力や技術革新に対するリスクとなっていると警告する。同時に、先進国における量的緩和などの金融政策は長期的な成長を促すためには不十分であることが明らかになってきたと指摘している。
わが国が戦後驚異的な発展を遂げ、国民が経済成長によって豊かになることができたのは、技術革新によるところが大きい。今後、少子高齢化で労働の供給は制約され、資本の源泉である貯蓄率の低下も見込まれる。こうした中で持続的成長を実現するには、絶えざる技術革新が不可欠である。日本の企業経営者が、まず企業家精神を取り戻すことが、日本経済の再生の必要条件である。