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2017.08.25 (金) 印刷する

相次ぐ米艦の衝突事故はサイバー攻撃か 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 6月、伊豆半島沖のフィッツジェラルドに引き続き、今月21日には、マラッカ海峡で米イージス駆逐艦ジョン・S・マケインが衝突事故を起こし、多くの死傷者、行方不明者が出た。死傷した米海軍水兵には心からのお悔やみ、お見舞いを申し上げたい。行方不明者についても一刻も早い救出を望みたい。
 一連の事故の原因については、サイバー攻撃の可能性も指摘されている。両艦とも最新のイージス艦であるが、航法についてはハイテクではなく従来型の人間臭い「見張り」とそれに基づく操艦であるため、サイバー攻撃の影響を受けたとすればGPS(全地球測位システム)であろう。いずれも事故航跡を見ると、衝突した貨物船・タンカーとも衝突前に急な左変針をしていることがわかる。筆者は明確な証拠を持っている訳ではないが、気になる論評が出て来ている。

 ●相次ぐ北やロシアのGPS干渉
 マケインの事故と同じ8月21日付で米ニュースサイトMcClatchy DC Bureauには、「米海軍の衝突はサイバーの脅威に関する懸念を掻き立てる(US Navy collisions stoke cyber threat concerns)」という記事が出た。さらに両事故の中間である7月11日号の海運関係専門誌The Maritime ExecutiveにはNPOである「快活な航海とタイミング財団(Resilient Navigation and Timing Foundation)」のDona Goward氏が「今年の6月22日、黒海でGPS干渉があり20隻の船が影響を受けた」とする報告書を出している。
 報告書によれば干渉源はモスクワで、関連して科学者が「多くの西側兵器がGPSによって精密誘導されていることから、それを妨害しようと試みている」と指摘している。2010年から2011年にかけて韓国で相次いだ大規模な携帯電話サービスの障害は、北朝鮮によるGPS電波妨害が原因と見られている。
 ちなみに5月に打ち上げられた日本版GPSには北朝鮮の電波妨害阻止機能が搭載されている。

 ●米国防費の強制削減が影響?
 米海軍艦艇の事故は昨年8月に弾道ミサイル搭載原子力潜水艦ルイジアナが、ワシントン州沖で米海軍支援船と衝突、今年も1月には巡洋艦アンティータムが横須賀で浅瀬に乗り上げ、5月にも巡洋艦レイク・シャンプレインが韓国漁船と日本海で衝突している。
 オバマ政権では2010年から2014年までの毎年20%以上も国防費が強制的に削減され、これが乗組員の教育・訓練・休養体制を不十分にし、一連の事故の遠因となったとする指摘がある。ベトナム戦争後の1970年代後半にもカーター政権によって国防費の大幅削減が行われ、在イラン米大使館占拠後の人質救出作戦失敗を招いた一因ともされる。当時の米軍はHollow Force(虚ろな軍)と揶揄されていた。
 今回の事故も予算削減の結果として繰り返された悲劇だとすれば、解任された第7艦隊司令官らは政策の犠牲者と言えるかもしれない。