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2017.08.28 (月) 印刷する

財政健全化には法的強制が必要だ(上) 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 平成30年度予算編成に向けた各省の概算要求の提出期限が今月末に迫ってきた。報道では、最大の課題を抱える厚生労働省の要求額は、実質過去最大31.4兆円に及ぶ。一方、「国及び地方の長期債務残高」は、平成29年度末に1,093兆円(対GDP比193%)に達すると見込まれている。財政健全化は、毎年、お題目のように唱えられるだけで、改善どころか悪化の一途を辿ってきた。団塊の世代が後期高齢者の年齢に達するのに残された時間は僅かである。それまでに財政健全化の筋道をつけることが、責任ある政府の義務である。
 政府は、平成30年度予算は、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(平成29年6月 9日閣議決定)を踏まえ、引き続き、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(平成27年6月30日閣議決定)で示された「経済・財政再生計画」の枠組みの下、手を緩めることなく本格的な歳出改革に取り組む、としている。

 ●入るを量りて出ずるを制す
 この「基本方針2015」の副題は、「経済再生なくして財政健全化なし」であり、歳出改革については、「公的サービスの産業化」、「インセンティブ改革」、「公共サービスのイノベーション」に取り組み、公共サービスの質や水準を低下させることなく、経済への下押し圧力を抑えつつ公的支出を抑制することを基本としている。つまり、効率化による支出の抑制を図ることを基調として、歳出規模自体の抑制については、全く触れていない。
 しかし、平成29年度の一般会計支出・歳入構成では、歳入総額97兆4547億円の内、公債費は35.3%にあたる34兆3698億円に達している。財務省のHPでは、この状況を家計に例えて、「我が国の一般会計を手取り月収30万円の家計にたとえると、毎月給料収入を上回る38万円の生活費を支出し、過去の借金の利息支払い分を含めて毎月18万円の新しい借金をしている状況」と説明している。
 つまり、「基本方針2015」で謳われているような歳出の効率化によって改善される状況には程遠いことは明らかである。実効性のある財政健全化を進めるには、歳出規模自体の抑制と、増税などの歳入拡大を同時に図ることが不可避である。

 ●成長頼みの再建には無理がある
 政府は、「基本方針2017」で、「経済・財政一体改革を加速する。改革に当たっては、『経済・財政再生計画』で掲げた『財政健全化目標』の重要性に変わりはなく、基礎的財政収支(PB)を2020 年度(平成32 年度)までに黒字化し、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す」とし、これまでにはなかった「債務残高対GDP比」を財政健全化目標に追加した。
 この背景には、今後の財政支出拡大に対する批判を回避しようとする狙いが透けて見える。内閣府は7月18日、消費税を予定通り10%に引き上げても2020年度時点で8兆2000億円程度の赤字が続くとの見通しを示している。
 債務残高対GDP比という基準は非常に重要なものであり、この比率が拡大し続ければ、財政破綻を引き起こす危険性も同時に高まる。そもそもPBの黒字化は、最終的には、この比率を減らすことを目的とする取り組みの1つである。つまり、まず毎年度の赤字を削減して収支を改善し、更なる余剰を出すことで、これまでの債務残高を減らすことができるというわけである。

財政健全化には法的強制が必要だ(下)