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2019.04.15 (月) 印刷する

海保は海自と有事の緊密連携できるのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 自衛隊法80条では防衛出動や治安出動といった有時には、防衛大臣が海上保安庁を統制できると規定している。ところが、海上保安庁法25条では「海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と規定している。本条は海保の創設に当たって旧ソ連の政治中将が強く求め、挿入された条項であることは3月26日の「ろんだん」でも述べたとおりである。
 だが、そこで生じるのは軍として訓練されていない組織を防衛大臣がはたして有事に統制できるのかという疑問だ。

 ●軍、海警、民兵が一体の中国
 沖縄県尖閣諸島沖の我が国領海を頻繁に侵犯している中国の海警は、昨年から正式に軍の指揮下に入った。海警は、昔から軍の訓練を受けてきた海上民兵とともに事実上の軍事組織である。即ち、尖閣を脅かす海警の背後には海軍と海上民兵が一体として控えているのである。
 これに対して我が国は、海保という警察権でこれを阻止しようとしており、海保は旧ソ連の政治中将が挿入した非軍事条項を家訓として後生大事に墨守している。
 藪中三十二元外務事務次官は昨年12月の戦略研究学会で講演し、防衛力での対抗には消極的な反面、「海保は船の能力、隊員を5倍位にすれば良い」と提言した。例えて言えば、完全武装の軍人に対し、拳銃と棍棒だけの警察官を5倍にすれば対応は可能だと主張しているに等しい。

 ●海保に根強い〝自衛隊嫌い〟
 筆者が情報本部長の時に、奄美大島沖で北朝鮮不審船事案が生起した。海保の巡視船と銃撃戦になり、北朝鮮の不審船は沈んだ。その後、不審船の船体が引き上げられ、鹿児島の海保に運ばれた。当時、筆者は情報本部の専門家と共に、その不審船を調査しに行ったが、海保側は「1時間のみ」と制限を設け、「あと3,2,1秒、はい終わり」という対応であった。
 不審船が搭載していた通信機器や武器についても、専門知識に乏しい海保の調査では限界がある。結局、海保は、その調査を防衛庁・自衛隊には依頼せず、米海軍に依頼した。
 近年、海自と海保の共同訓練が行われるようになったが、当初は海自が海保巡視船の位置情報を知らせるように要請しても「パトカーの所在を教えられるか!」と消極的であった。こうしたメンタリティーで、いざという時に緊密な協力体制が築けるのか疑問である。