19日のBSフジ「プライムニュース」に中東問題専門家として出演した田中浩一郎慶応大学教授は、今回のサウジ石油施設攻撃について「米トランプ大統領は歴史や国際法を知らず、イラン核合意から離脱して今回の危機を生んだマッチポンプ」と酷評し、「安倍総理はトランプ大統領にイラン核合意に復帰するように直言すべき」と主張した。
田中氏の〝助言〟を安倍総理が真に受けるとは思わないが、仮にそんな話になれば、平素から日米同盟の不平等性を訴えているトランプ氏のことだ、「血と汗で貢献する平等な関係にしろ」とか「防衛費はNATO並みにGDP比2%に増額しろ」と切り返されるのが落ちであろう。日米同盟に亀裂をもたらし、北朝鮮や中国の脅威に晒されている軍事的に半人前な日本の安全保障を脅かすことにもなる。
サウジとイランの対立・抗争は宗教的背景に根ざす構造的なものであり、アメリカのイラン核合意からの離脱以前からあったことから、これが火を付けたという単純なものではなかろう。それを言うなら軍事的なマッチポンプ役はむしろ中国である。
●中東に出回る中国製兵器
今回のサウジ攻撃直後、犯行声明を出したのはイエメンの親イラン武装組織フーシ派だが、そのフーシ派が2016年10月、紅海を航行中の米ミサイル駆逐艦「メイソン」を攻撃した際に使用した巡航ミサイルC-802は中国製である。今回サウジが公開した巡航ミサイルの残骸写真をみるとC-802に類似したものがある。
昨年末に英王立防衛安全保障研究所が発表した報告書(Armed Drones in the Middle East: Proliferation and Norms in the Region)によると、中国は軍用ドローンの「翼龍(Wing Loong)」や「彩虹(CH-4B)」を、イランを含む複数の中東諸国に大量輸出しているという。
そして今回のサウジ攻撃の3日後に中国軍報英語電子版「China Military」は「中国はサウジ油田攻撃後、ドローン攻撃を防ぐ用意をしている」との記事を掲載している。
中国は中東に巡航ミサイルや軍事ドローンを提供するとともに、ドローン防御兵器をも輸出しようとしている。攻守両面で中国の軍事技術を実戦で試しつつ向上させていく魂胆もある。即ち軍事的に言えばマッチポンプはまさに中国なのだ。
●新たなドローン戦に備えよ
ドローンは既にアフガン戦争で偵察や目標指示任務に使用され、イラク戦争では対空火器を引きつけたり、空対地ミサイルのヘルファイアを搭載したりして戦闘任務に使われた。
2015年には放射性物質を搭載したドローンが、東京・永田町の首相官邸屋上に着陸。2017年にはシリアやイラクでのテロ活動に使われ、昨年はベネズエラのマドゥーロ大統領暗殺未遂事件でも使用された。いずれ生物・化学兵器のみならず、核兵器も搭載できるようになるであろう。
今世紀初頭の中国ではドローン技術がまだまだ乏しかった。2005年にはヤマハ発動機が中国に規制対象だった農薬散布用の無人ヘリを不正輸出して問題になった。それが本年9月2日には、広東省で約1000機のドローンを同時飛行させることに成功している。18日の米紙ワシントンタイムズによれば、中国は既にマッハ3.3の超音速ドローンDR-8まで開発しているという。
雲霞の如く群がってくるドローンを対空ミサイルで撃ち落とすのは費用対効果が低い。集中射撃弾やレーザーのような指向性エネルギー兵器で撃墜するハードキルのみならず、管制電波を妨害するソフトキル手段も開発しなければなるまい。米陸軍では既に弾道低高度ドローン交戦(Ballistic Low Altitude Drone Engagement-BLADE-)を完成させ、本年初夏、ニュージャージー州での実験に成功している。米海軍/海兵隊は軽海洋防空統合システム(Light Marine Air Defense Integrated System-LMADIS-)で本年7月に米強襲揚陸艦「ボクサー」に接近するイランのドローンを撃墜、米空軍も高出力マイクロウエーブ作戦反応機(High Power Microwave Operational Responder-THOR-)を開発中である。これらは今回サウジに増派される米軍部隊には装備されるのではないか。
日本の軍用ドローン技術は周回遅れであるが、その原因の一つには学会や民間企業が防衛技術開発に協力すると、軍事協力はけしからんとして村八分にする悪しき実態がある。中国が「軍・民結合」を強力に推進しているときに、これでは日本の官民協力は進まない。