公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.11.19 (火) 印刷する

中国の偽情報流布戦に騙されるな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 香港で起きているデモについて中国外務省の華春瑩報道官は数ヶ月前、「明らかに外国勢力が背後で糸を引いている。米国は早く香港への魔手を引っ込めるよう忠告する」と述べた。これを受けるように12日の中国共産党機関紙「人民日報」系の「中国日報」(英語版)は、操られた人形が火炎瓶と血塗られたナイフを持って香港の将来を脅かしているとする風刺画を掲載した。また「デモ参加者達は金をもらっている」という偽情報もSNSを通じて拡散している。
 しかし、これらは全く根拠のない偽情報である。香港の一般市民は民主的な活動を約束した一国二制度が守られていないことに怒っているのだ。

 ●台湾選挙でも偽写真拡散
 1年前の台湾統一地方選挙においても、中国は偽情報の拡散に全力を挙げた。伝統的に民進党が強かった高雄市の市長に、国民党の韓国瑜氏(来年の総統選挙の国民党候補)が選出されたが、この原因の一つとされるのが、民進党の候補者である陳其邁氏がテレビ討論の際、イヤホーンによって情報を得ていたとする偽写真が拡散したためとされている。中国側の手によることは明らかだ。
 11月8日に参議院議員会館で行われた、台湾戦略学会等とのシンポジウムに参加したところ、台湾側の出席者は、来年1月11日に行われる台湾総統選でも中国側は、こうした偽情報による輿論戦を展開しているとのことであった。
 昨年、台風21号によって関西の海上空港と本土を結ぶ橋が破壊された。この時、中国はインターネットで「中国の総領事館が用意したバスが関西空港に入り、中国人を優先的に救出した」とする偽情報を拡散させた。このため、台湾の総領事館に相当する大阪の台北駐大阪経済文化弁事処代表の蘇啓誠は、台湾人を救出できなかったことを苦に自殺に追い込まれた。

 ●沖縄でも偽情報で独立煽る
 2012年9月17日、人民日報系の国際情報紙「環球時報」は、次のような記事が掲載している。「2006年3月4日に沖縄では住民投票が行われ、その結果75%の住民が独立を求め中国との自由交流の再開を要求、残りの25%が日本への帰属を求めたが自治を要求した」。これは明白かつ意図的な偽情報で、沖縄でこうした住民投票が行われた事実はない。
 2016年12月、中国国防部は、「航空自衛隊のF-15が中国軍機にデコイ・フレアー(おとりの小型火炎弾)を撃った」として、「こうした行動は中国機と乗組員の安全を危険に晒し、危険かつプロらしくない」と非難した。しかし、彼らが証拠として示した写真のF-15機は、当日飛行任務についておらず、中国軍機を妨害することなどありえなかった。
 2600年も前から中国は偽情報を戦いに使うことに長けていた。『孫子の兵法』用間篇第十三に示されている「死間」がそれである。騙されてはいけない。